でも、彼女は知っている。

 ……口惜しいけれど、この男が、ササネの命を救っている。

 彼が殺すな、俺が飼うと、主である父親の前で啖呵を切ったから、彼女は今、ここにいるのだ。
 ある意味、その男に囚われて。


   * * *


 生きていれば、薙白に再び逢えると思った。だから何があっても生き延びようと、考えた。
 たとえ、自分が永久に続く深く暗い闇の中へ転がり込んで、穢れてしまっても。堕落してしまっても。

 なのに。

 ただ生き延びるということが、こんなにも、惨めなことだと知らなかった笹音。
 憐憫の表情とは裏腹に主の息子を誑かした女狐だと、卑しい奴だと、蔑む女どもにこき使われる真昼。昼飯を抜かれることはしょっちゅうで、男がいない合間に彼女らは笹音をいたぶることで日々の平穏を実感している。足南(あしなみ)宇奈月(うなづき)城が陥落したことを。

 城の人間は加賀出の手によって全滅した。足南の姫君だった笹音を除いて。
 物好きな男の側女として、彼女は生きつづけることを許された。
 好奇な視線に刺し殺されそうになりながらも、文句を言わずに働きつづける笹音。