「五年後、姫の気持ちに嘘偽りなければ、俺はお前を妻にしたい」
それは、ササネに対する求婚として捉えてよろしいのですか?
薙白の言葉は、笹音にとって、信じられないものだった。
常に笹音を守ってくれた兄のような薙白。彼のお嫁さんになるのは器量良しのしっかり者……そう、侍女の明月みたいな少女がお似合いだと、そう笹音は思っていたから。
だから意外だった。
自分の隠していた気持ちが露見してしまったのだろうか。十二歳の笹音にとって、同い年なのに急に身長を伸ばした薙白の存在は大きすぎる憧れの太陽でしかなかったから。この恋慕を彼に告げたら彼は迷惑がるだろうと、そう考えていたから。
だから意外だった。
「笹音?」
黙り込んでしまった笹音を、薙白が不安そうに見下ろす。背丈のある薙白は、しゃがみ込んで笹音の顔をじぃっと見つめ、微笑む。
笹音は震えていた。
「……また、お会いできるのですか?」
もう二度と会えないかもしれないというのに、無邪気に約束なぞしていいのかと、笹音は怯えている。賢すぎる少女は、これから薙白が近淡海の国へ人質として渉ることを知っているから。
「もう、会いたくないのなら、そのまま姿を消すこともできようぞ」
意地悪そうに笑う薙白の言葉を遮るように、笹音が柳茶色の着物の裾を掴み、訴える。
「厭です。ササネは、ササネはまた、チシロ殿にお会いしとうございます」
「是と受けてよいか?」
俯く笹音に、確認を取る薙白。
やがて、笑いを堪えながら、笹音。
「……お慕いしとうございます」