弱々しい明月の反応を無視して、男は彼女の首筋に、柔らかい唇を押し付ける。

「俺の、女になれ」
「乗り換えられるのですか?」

 責めるように、明月が口を尖らせる。そんな彼女をいとおしげに、男が長い髪を梳く。

「違う」

 そうじゃないと、小声で囁く。

「俺の正室は、笹音しかいない。わかっておるくせに」

 顔を赤くして、潔く言い切る男を、明月はこのときはじめて、かっこいいと感じる。


   * * *


 五年越しの約束を、笹音に代わって、明月が宇奈月として男の元に側室として嫁いだのは、戦が終わった雪解けの春のことである。




   “attached promise on the dawning moon”―――fin.