残酷な試練。古い記憶は投げ捨てたつもりだった。たったひとつの約束を除いて。だから、今を彷徨う笹音は、思い出せと強要されるたびに、苦しむのだ。

 姫である笹音を彼は殺した。のに。
 彼は笹音自身を殺さなかった。
 自分に仕えよと、側女になれと、命じられた。そうすればお前の未来は保証されると。
 仕えられていた人間が、仕える側に翻る。その変化に、唯々諾々と従う笹音。
 それでも少女はひとり彷徨う。昔の栄華を夢見て。いつか笹音を迎えに来ると約束した彼を求めて。

 ――約束の時は、近づいている。

 笹音、十六歳。
 それが、生きている証に、なる。