銃声が轟く。馬が暴れだす。止まっていた時間が動き、明月の頭上を矢が掠めてゆく。
男が明月を抱き寄せ、攻撃をかわす。剣戟の音。片手に明月を抱いたまま、男は長い剣を自由自在に操っていく。
「わたくしの名を、存じて」
「うるさい。話は後で聞いてやるから黙って俺の傍にいろ! ったくのこのこ戦場まで来やがって」
文句を言いながら、更に男は鮮やかに舞う。鮮やかに、鮮やかに。
途方に暮れた表情の明月を片腕に抱いたまま。
* * *
朱に染まった蝶が雪に包まれた平原に散る。敵兵は撤収したらしい。肩で息をしている男を見て、申し訳ないことをしたと明月はうなだれる。白い息が周囲に舞い上がる。
雪は、やんでいた。雲間から顔をのぞかせた太陽が、降り積もった雪をきらきら、輝かせている。眩しいと明月は顔を伏せる。
そんな明月を見て、男は静かに口を開く。
「死んだんだな、笹音は」
やはり、彼は知っていたのだ。最愛の少女が、病で呆気なくこの世を去ってしまったことを。
明月は無言で頷く。
「お前、笹音の侍女だろ。笹音から聞いたことがある。俺が求婚したときに、自分よりも明月の方がお似合いなのに、なんて零していたから」
「笹音様が……?」