罪悪感は、雪のように静かに降り積もる。そして、重たく圧し掛かる。

「でもね」

 笹音は明月にだけ、続きを口ずさむ。

「もし、もしも、ササネが約束守れないで死んでしまったら……」

 ……そしたら明月、薙白が迎えに来たときに、伝えてくれる?


   * * *


 ずきん。重石を嚥下してしまったかのような苦しみ。それでも明月は、駆ける。
 騾馬に乗り、雪に消された男の行方をあてもなく探る。自ら馬に乗ったのは久方ぶりだが、明月を嫌がることなく、馬は颯爽と樹氷の合間を駆け抜けてゆく。

 伝えなくてはならない。
 笹音が薙白のことを想いながら、この世を去った事実を伝えるために。
 約束の、五年は、雪解けの春。まだ、約束の春は姿を見せないけど。

 もう、待てない。
 確かめなくてはならない。
 あの男が本当に薙白であるのなら、明月が笹音でないことを、知っていて傍に置いているのだ。

「そう、か」

 とても簡単なことだった。
 男は決して自分のことをササネと呼ばなかった。わたくしのことを、宇奈月と呼んだ。
 それで充分ではないのか。