その間、ずっと傍にいられたわけではない。笹音は国の高貴な姫君だから、様々な教育を受けさせられた。あとになってこっそり明月に何を習ったと報告してくれたから、明月も文字の読み書きと簡単な計算はできるようになったけれど。

 笹音が薙白という少年と仲良くなったことを知ったのはいつだっただろう。琴の音を気に入ってくださったのと、頬を赤らめていた笹音が、とても愛らしかった。
 最初で最後の恋。笹音の初恋は、清楚で、綺麗なものだと思っていた。今の今まで。
 薙白が異国へ渉ったことを知ったのは、一年後、笹音が病に倒れてからだ。
 薙白殿と約束したのにと、口惜しそうに零す姿は当時十三歳とは思えないほど艶やかだった。

「……明月、五年って長いのね、ササネの命よりも長いのかも」

 弱気になった笹音を、明月は励ますことしかできなかった。なんでそんなことを言うのです、笹音様は五年後ちゃあんと薙白殿と再会して、幸せになるに決まってますと。

「ありがとう、明月」

 そう言うと、笹音は必ず礼を言う。礼を言われる都度、罪悪感が募る。
 笹音が五年後に生きている未来を、明月も半信半疑にしていたから。