まさか、鴇姫に指摘されるとは思ってもいなかった。

 ……だって貴女、ササネじゃない(・・・・・・・)でしょ?

 うたうように、鴇姫は聞いた。
 全てお見通しなのよと、嘲笑った。
 皮肉なことに、その瞬間、わかったのだ。男の正体が。

 ……彼が、薙白だったんだ。

 少女は苦笑する。考えていた人物じゃないことに、驚き、呆れる。
 とんだ茶番だ。

「薙白丸って、元服前の名前だもんね」

 ぺろりと舌を出して、少女は頷く。
 笹音とした約束を守るため、薙白が迎えに来るのを待っていた。笹音の無念を叶えようと、少女は笹音になった。

 名前を捨てて、笹音に、なった。


   * * *


明月(あかつき)、貝合わせをしましょう?」

 楽しそうに笹音が明月を呼ぶ。乳母によって育てられた笹音にとって、乳母の娘である明月は格好の遊び相手だ。
 足南の姫君、笹音は身体が弱かった。笹音を生んだことで、寝たきりになってしまった母親同様、笹音も何かあるとすぐに寝込んでしまう子どもだった。

 逆に、明月は活発で、男の子に生まれればよかったのにと言われるほどだった。明月の方が笹音よりも年下なのに、隣に並ぶと姉に間違えられるほどの、体格差があった。

 結局、明月は十年ほど、笹音の傍にいたことになる。