笹音の母親は確かに病気だった。いつ死んでもおかしくないと薬師にも言われ、覚悟はしていた。だけど、まさか敵方の手によって殺められるとは、思ってもいなかったから。

「……それが、あの男の真意?」

 男を兄と慕う鴇姫の前で、思わず声を荒げた笹音。それを見て、すまなそうに俯く少女。まるで笹音が彼女をいじめているみたいじゃないかと、笹音は慌てて尖った口許を覆う。

「それは、兄上じゃないと、わかりません」

 鴇姫は、降りつづける雪を寂しそうに見送る。笹音はもう、何も言えない。
 男は、城の人間を滅ぼした。笹音だけを殺さずに。
 それに、意味はあるのだろうか?
 気まぐれな男に翻弄されっぱなしの笹音は、一つの可能性に辿りつく。
 息を飲む、些細な音。笹音に顔を向けて、鴇姫が嘲る。

「それとも、約束をお破りになるの?」

 幼い少女が見せる、凛とした表情に、気圧されて。

「……知って、るの」

 あどけない顔に、騙されそうになる。聡明な彼女は、笹音を知っている。足南の姫君である笹音(・・・・・・・・・・)を。だから、気づいている。