……宇奈月の姫君は、兄上に気に入られた女の人って言うから、どんな方か、前から興味があったんです。すごく、綺麗ですね。

 初対面で、そう言われて思わず顔を赤く染めた笹音。十歳になったばかりの姫君は、雪を見つめる笹音に尋ねる。

「そんなに、雪が珍しくて?」
「ええ。これほどまでに積もるなんて、思ってもいなかった……」

 しんしんと積もりつづける雪。音を消すように、白が世界を浄化する。血で穢れた土地も、真っ白に、塗りつぶされる。

「兄上は、雪がお嫌いなんです」
「……そう」

 どうして嫌いなのかと、聞いてもきっと、幼い鴇姫はわからないと応えるだろう。そう思い、俯いた笹音だったが。

「雪の日に、あなたの母君を殺めてしまったから」

 大人びた鴇姫の声が、笹音の期待を裏切る。

 ……あれは、風前の灯火だ。

 空耳だと思った男の声が、脳裡に蘇る。新しく刻まれる。笹音はびくつき、途方に暮れた声を漏らす。

「知って、らしたの?」

 鴇姫は困ったように微笑んで、笹音を見上げる。

「床に臥してらした彼女を見て、もう長くはないと、兄上は一思いに太刀を振るったそうです」