冬。
足南より北に位置する加賀出の国は、雪が舞い始めるのも早い。
笹音は格子から、降り積もる白を眺めている。
男の姿はない。旅立ったのだ。
国境の、戦場へ。
男は、出かけざまに、言った。
「雪が解ける頃には、この戦いも終わろう」
笹音は頷く。自信満々な男の態度は、見ていて清々しいほどだったから。
きっと、彼の言うとおりに戦は進むのだろう。人を殺して、領土を拡げるのだろう。
笹音の故郷を滅ぼした時のように、呆気なく。
「宇奈月の姫?」
呼ばれて、顔を向けると、笹音よりもひとまわり小さい少女が座っていた。
「鴇姫様」
男の異母妹、鴇姫が笹音にこっそり会いに来るようになったのは、戦が始まった翌日のことだ。
異母兄が先陣を切る姿を頼もしいと口にしつつ、命は大事にして欲しいものですと、心配そう告げる鴇姫のことが、笹音は嫌いではない。