「夢を引きちぎった主(ぬし)かもしれない影の一端を、伊織さまの中に縫い付けてきました。これで伊織さまから主を追えるでしょうか」

千早がそう言うと、伊織はでかした! と千早を抱き締めた。

「い、伊織さま!」

ふわりと香る、焚き染められた爽やかな香の香りが心臓に悪い。伊織さま、初対面の時の印象から、まるで変ってしまった。

「早速、陰陽師たちに探らせよう。敵の尻尾が掴めたこと、まことに喜ばしい」

「いえ、それは良いのですが、放して頂けませんか? 功績を上げるたびに臣下を抱き締めていたら、伊織さま変態認定されますよ?」

「一国の主に対して、大層な物言いだな、千早。それに、何も誰彼構わずこんなことをしているわけではない」

? というと? 疑問顔で伊織を見れば、目の前の瞳がやさし気に細められた。

「お前にしか、していない、ということだ。千早」

(!?)

そ……、それはつまり……。

「い、伊織さま。やはり男色の趣味がおありだったのですか……?」

身を引いて問うと、伊織は意味ありげに笑って千早を見た。

「さあ? どうだろうな?」

くつくつと笑う伊織を前に、背中に冷や汗しか流れない。

(女だってこと、まさかバレてないよね!?)

バレてたら、主上を騙した罪として、即刻投獄されてもおかしくないし、そうされてないってことは、バレてないってことだと思いたい。だけどくつくつ笑う伊織の真意が測れなくて、どんどん悪い方へと想像が転がっていく。千早は微笑む伊織の前で固まっていた。