目の前でふう、と瞼を持ち上げる老人を見守る。開いた目はぱちぱちと瞬きをし、それから傍に座っていた千早を見た。

「夢が……」

ぼそりと呟く彼に、にこりと笑って問う。

「夢は見れましたか?」

千早の問いに、老人は起き上がってゆっくりと頷いた。

「……ばあさんに、会えた……」

「そうですね。一緒にお花見をしていましたね」

千早の言葉に、老人は驚いたような顔をする。

「お前さん、儂が見た夢が分かるんか……?」

「分かりますよ。だって、接ぎましたからね」

「ああ、そうやったな。だから、お前さんに夢を見させたくれって、頼んだんやった……」

納得がいった、という顔をして、老人は頷いた。

「そうです。ご覧になった夢は吉を運ぶ夢でした。この先、お健やかにお過ごしください」

老人が千早の接いだ夢をちゃんと見られたのなら、千早がここにとどまる理由はない。依頼の仕事をやり終え、千早が老人の家を出ようとすると、老人が代金を払おうとする。

「いいですよ。そのお金で、おばあさんの墓前に供える好物でも買ってください」

千早はそう言って、老人の家を出ようとした。その時。

「夢接ぎの千早とやらは、ここにいるか」

老人の家の前に、なにやら立派ないで立ちの人がいた。ここらは都の中でも貧しい者たちが住まう場所。袍をまとうものが訪れることはまずない。

「千早はそれがしにございますが」

千早が応じると、訊ねた主(ぬし)はじろっと千早を値踏みするように見やり、それから朗々と声を発した。

「恐れ多くも主上がお呼びである。至急、内裏へ来るように」

は?

千早の生活と全く結びつかない言葉を発されて、千早はぽかんとした。