昨日の今日で心変わりするような表情は、していなかったのに。

 ということは、これは佐伯先輩の冗談だろうか。

 どうしてそんな冗談を言うのかは、まったくわからないけど。

「……先輩、その冗談は少しタチが悪いと思います」

 嫌悪感を抱いた私は、つい佐伯先輩を睨んでしまった。

「冗談じゃないよ。俺が写真を撮りに行くのについて行くって、栄治が言ったんだから。まあ、栄治が写真を撮るかはわからないけど」

 それを聞いて、私は夏川先輩がなにを考えているのか、わからなくなった。

 私が読み取った感情は、気のせいだったのかもしれない。

 でも、あの表情は絶対、演技ではない。

 夏川先輩のことはほとんど知らないのに、妙に自信があった。

「夏川栄治はなんで、写真撮らなくなっちゃったんですか?」

 なにも言えずにいると、咲楽が佐伯先輩に質問をした。

 変わらず呼び捨てなところは気になるけど、質問の答えのほうが気になって、私は触れなかった。

 佐伯先輩は視線を上げ、悩んでいる。

 それはそうだ。夏川先輩の、触れられたくないところに勝手に触れてしまっているのだから、話していいか悩むに決まっている。

「行きます」

 私は話の流れを切って、さっきの誘いの答えを言った。

 突然答えたから、佐伯先輩は一瞬なんの話をしているのかわからなくなったらしい。

「撮影会。参加させてください」

 改めて言うと、佐伯先輩はにやりと笑った。

 なにかの企みに巻き込まれたのかもしれないと思うと、誘いを受けなければよかったと後悔する。

「古賀ちゃんがいると、栄治が写真を再開してくれる可能性が上がるから、そう言ってくれて嬉しいよ」

 それを聞いて、悪巧みではなかったことに、少しだけ安心した。

 そして、佐伯先輩も私と同じように夏川先輩の写真を楽しみにしているのだとわかり、仲間意識のようなものが芽生えた。

「佐伯先輩も、夏川先輩の写真が好きなんですか?」

 恐らく、佐伯先輩は“好き”というワードに戸惑いを見せた。

 照れているようで、視線を泳がせる。

「古賀ちゃんほど熱烈なファンってわけじゃないんだけど……栄治の写真見てるとさ、なんかこう、わくわくするじゃん?」

 私は大袈裟に頷く。

「あとは、カメラを持ってるときの栄治が、一番輝いてるから」

 佐伯先輩は懐かしそうに呟く。

 佐伯先輩の優しい表情を見ていると、私も、その姿を見たいと思った。

 夏川先輩が望まない欲が、次々と溢れてくる。

 満たされるかどうか怪しいだけに、もどかしい気持ちになる。

「じゃあ、日程とかはまたあとで連絡するから。それと、撮影会以外の約束が増えるかもしれないから、もしよかったら予定空けといて」

 佐伯先輩は慌ただしく、教室を出ていった。

 少しだけ顔が赤くなっていたから、きっと恥ずかしくなったのだろう。

「約束が増えるって、どういうことなのなかな」
「デートのお誘いだったりして?」

 咲楽は弾んだ声で言ったけど、そんな気配は微塵も感じられなかったから、私は同調できなかった。