◆
「はじめまして、楪花奈です。よろしくね」
待ち合わせ場所の駅に着くと、夏川先輩と佐伯先輩だけでなく、去年の文化祭で見た写真に写っていた人がいた。
あのころよりも大人っぽい笑顔に、見惚れてしまう。
『ボウリング、二人追加で』
昨夜、夏川先輩からそんなメッセージが届いたけど、あの写真のモデルさんに会えるとは思っていなかった。
「はじめまして、古賀依澄です」
「氷野美優です」
芸能人に会った感覚のまま名乗ると、美優も続く。
「依澄ちゃんと、美優ちゃんね」
楪先輩は私たちの名前を呼んで確認すると、そのまま距離を詰めて来た。
茶色っぽい髪の毛が揺れ、甘い花のような匂いが香ってくる。
写真だけでも綺麗な人だと思ったけど、実際に会うと、女の私でも惚れてしまいそうだと思った。
「ねえねえ、映人くんに写真を再開させたのって、どっち?」
楪先輩は小声で聞く。
その理由がわからないまま、私は右手を小さく上げる。
すると、楪先輩は両手で私の左手を握った。
大きな瞳が輝いている。
「ありがとう、依澄ちゃん」
向日葵のような笑顔とは、このことか。そう思うほどに、可愛らしいものだった。
「どうして“ありがとう”なんですか?」
未だに夏川先輩の写真の良さに気付いてくれない美優が、心の底から不思議そうに言った。
「私ね、映人くんの写真が好きなの。だから、また見れるのが嬉しくて」
それを聞いて、心の奥底で黒い感情が芽生えた気がした。
私と同じで、夏川先輩の写真を好きだと言う人に出会えたのに。
どうして私は、苦しいと感じているんだろう。
「じゃあ、もしかして、夏川映人の彼女だったりします? あの写真って、完全に恋してる眼だったじゃないですか」
恋バナ好きの美優が嬉々として聞くと、その場の空気が固まった。
この雰囲気から、美優の予想は間違っているとわかるけど、こんなにも変な空気になるものなのか。
私も美優も、わからなかった。
「違うよ」
言葉で否定したのは、夏川先輩だ。
すると楪先輩が穏やかに、そして嬉しそうに微笑んだ。
「うん、違う。私は映人くんとは付き合ってない」
ここまではっきりと否定して、嬉しそうにしている理由が、まったくわからない。
「夏川映人とは……てことは、彼氏はいるんですか?」
楪先輩は少し頬を赤らめて、さっきよりもより柔らかく笑った。
今日一番の幸せそうな顔だと思いながら見惚れていると、シャッターの音がした。
音が聞こえたほうを向くと、夏川先輩が私たちにカメラを向けている。
「映人、それ送れよ」
夏川先輩の後ろから現れた黒髪のクールそうな人が、命令をした。
「わかってるよ」
「相変わらずの独占欲ですね」
夏川先輩も佐伯先輩も自然に話しているけど、雰囲気と格好から、近寄り難いと思ってしまう。
「今来たのが、私の彼なの」
楪先輩は可愛らしい表情のまま、私たちに聞こえるように囁いた。
「あの人が?」
思わず声に出してしまって、私は口を塞ぐ。
楪先輩が微笑んでいるから、その優しさに救われたと思った。
「いや、あの、悪い意味じゃなくて、美男美女でお似合いだなって思って」
慌てて弁明すると、楪先輩はますます笑顔になる。
「ありがとう、依澄ちゃん。すごく嬉しい」
本当に、優しさの象徴みたいな人だ。
私と同じように素直な人なのに、私とは全然違って、なんだか泣きたくなってしまう。
「よし、じゃあ行きますか」
メンバーが揃ったということで、佐伯先輩の声掛けにより、私たちはボウリング場に向けて出発した。
「そうだ、提案」
先頭を歩く佐伯先輩が手を挙げた。
「男女で分かれて、勝負しませんか」
弾んだ声なのに、みんなが賛成しないから、佐伯先輩の表情が少しだけ落ち込んで見える。
「いいね、やろう」
夏川先輩も楪先輩の彼氏さんも面倒そうにしているのに、楪先輩は乗った。
その一言で、佐伯先輩に元気が戻ってくる。
「負けたチームは、勝ったチームにケーキ奢ってね」
楪先輩が悪い顔をして、そんな提案までするとは思わなかった。
「それ、花奈が食べたいだけだろ」
隣を歩く彼氏さんがため息混じりに言うと、楪先輩は小さく頬を膨らませた。
「じゃあ、遥哉くんはなにが食べたいの?」
楪先輩の質問に、彼氏さんは答えない。
楪先輩は答えを迫っているけど、そんなことよりも、私は楪先輩の彼氏さんの名前を知らなかったことに気付いた。
そういえば、お互いに自己紹介をしていない。
「お昼ご飯を奢る、でいいんじゃない?」
名乗るべきか悩んでいると、夏川先輩が間に入って提案した。
みんなそれに賛成のようで、その話は終わり、適当に雑談をしているうちに、私たちは目的地に到着した。
滅多に来ない場所だからか、変に緊張する。
私と美優は夏川先輩たちの背を追って、中に入った。
今いるお客さんたちが倒すピンの音が聞こえてくる。
その大きな音に少し怯え、きっと二人揃って、物珍しいものを見ているような反応をしていることだろう。
「依澄ちゃん、美優ちゃん、ここに名前書いて。あだ名でもいいよ」
楪先輩に手招きされ、楪先輩が指すところを見ると、すでに『カナ』と書いてある。
私はその下に『いずみ』、美優は『サクラ』と書いた。
ゲーム代を支払って、靴を借りて、ボールを選ぶ。
「重た……」
美優が呟くのに頷き、私も美優も両手でそれを運ぶ。
新しい体験だらけで、まだ本番ではないのに、楽しくなってくる。
美優も同じらしく、私たちは顔を見合せて笑う。
「そうそう、遥哉くんたちの隣のレーンにしてもらったから」
楪先輩の進む先には、もう準備を終えた男子三人がいる。
遥哉先輩の容姿、雰囲気は女子の視線を誘うもののようで、楪先輩は若干不服そうにしながら、隣のレーンに進む。
楪先輩がしたようにボールを置き、頭上にある画面を見ると、私は目を疑った。
「ナツカワ1、2、3……?」
読み上げてなお、わからない。
「もう、佐伯くんは夏川じゃないでしょ」
「だって、二人とも名前決め面倒だからって、苗字にして、そしたら俺だけ仲間はずれになるんだよ? そんなの、嫌じゃん」
子供のような言い訳だけど、その言い方よりも、一つ気になることが。
「遥哉先輩も、夏川っていうんですか?」
「あれ、知らない? 遥哉くんと映人くんは兄弟なんだよ」
楪先輩は私たちが聞いているものだと思っていたみたいだけど、夏川先輩は二人増えることしか教えてくれなかったのだから、知るわけがない。
でも、言われてみると似ているような、似ていないような。
初めて夏川先輩に会ったときの、私を突き放すような少し冷たい視線は似ているかもしれない。
そんなことを思い返していると、楪先輩と遥哉先輩が同時にボールを投げた。
二人ともストライクという、最高の出だしだ。
楪先輩がピースサインをして喜ぶのに対して、遥哉先輩は表情を変えない。
二人が並ぶとたしかに絵になるけど、こうも正反対だと、恋人同士なのかと疑ってしまう自分がいる。
「次、依澄ちゃんと映人くんね」
私は緊張しながらボールを持つ。
遠くのレーンからピンを倒す音が聞こえて、それがまたプレッシャーのように感じた。
こんなに緊張するのは、久しぶりだ。
「大丈夫?」
横から、夏川先輩が心配そうに見てくる。
「……はい、大丈夫です」
自分にそう言い聞かせて、前を真っ直ぐ見る。
ボールを構えて、ゆっくりと歩を進め、さっきの楪先輩の投げ方を思い出しながら投げる。
いい感じに直進していたと思えば、最後の最後で曲がってしまって、六本倒すという中途半端な結果になってしまった。
「依澄ちゃん、いい感じ! 次で全部倒せるよ!」
楪先輩の大きな声援で、本当にできそうな気がしてくる。
戻ってきたボールを持ち、深呼吸。
そして残ったピンを目掛けて投げる。
当たる前からわかってしまったのだけど、ボールは一本も倒さずに奥に吸い込まれた。
「惜しい、惜しい」
席に戻ると、楪先輩がすぐにそんな声掛けをしてくれた。
おかげで、次も頑張ろうという気持ちになる。
そして電光掲示板を見上げると、夏川先輩がストライクを取っていたことに気付いた。
「憎たらしいよね、夏川兄弟。遥哉くんはサラッとストライクだし、映人くんなんか、写真を撮ることに集中してるくせに、ストライクなんだよ」
楪先輩は周りの音に打ち消されてしまうから、私の耳元で言った。
夏川先輩は準備をしている佐伯先輩にスマホを向けている。
先輩が写真を撮るようになってくれたのは嬉しいけど、勝負に集中していないというのは、少しムカつくかもしれない。
「ここは是非とも、映人くんのかっこ悪いところを写真に残さないと、だよね」
楪先輩は悪い顔をしている。
たしかに、今の私のガターが記録に残されているとしたら、夏川先輩の失敗が残らないのは、不平等だ。
こんなことはあまりしたくないけど、きっと、この人たちなら大丈夫な気がした。
「……ですね」
私たちがそんなやり取りをしている間に、美優がボールを構えた。
佐伯先輩も同じペースで歩き、ほぼ同時に投げる。
そして綺麗に、二人ともガターとなった。
美優は振り向き、頬を膨らませる。
「大丈夫だよ、美優ちゃん。次いける!」
楪先輩の応援は虚しく、もう一度ガター。
「つまんない」
まだ始まったばかりなのに、美優はすっかり拗ねてしまった。
「はじめまして、楪花奈です。よろしくね」
待ち合わせ場所の駅に着くと、夏川先輩と佐伯先輩だけでなく、去年の文化祭で見た写真に写っていた人がいた。
あのころよりも大人っぽい笑顔に、見惚れてしまう。
『ボウリング、二人追加で』
昨夜、夏川先輩からそんなメッセージが届いたけど、あの写真のモデルさんに会えるとは思っていなかった。
「はじめまして、古賀依澄です」
「氷野美優です」
芸能人に会った感覚のまま名乗ると、美優も続く。
「依澄ちゃんと、美優ちゃんね」
楪先輩は私たちの名前を呼んで確認すると、そのまま距離を詰めて来た。
茶色っぽい髪の毛が揺れ、甘い花のような匂いが香ってくる。
写真だけでも綺麗な人だと思ったけど、実際に会うと、女の私でも惚れてしまいそうだと思った。
「ねえねえ、映人くんに写真を再開させたのって、どっち?」
楪先輩は小声で聞く。
その理由がわからないまま、私は右手を小さく上げる。
すると、楪先輩は両手で私の左手を握った。
大きな瞳が輝いている。
「ありがとう、依澄ちゃん」
向日葵のような笑顔とは、このことか。そう思うほどに、可愛らしいものだった。
「どうして“ありがとう”なんですか?」
未だに夏川先輩の写真の良さに気付いてくれない美優が、心の底から不思議そうに言った。
「私ね、映人くんの写真が好きなの。だから、また見れるのが嬉しくて」
それを聞いて、心の奥底で黒い感情が芽生えた気がした。
私と同じで、夏川先輩の写真を好きだと言う人に出会えたのに。
どうして私は、苦しいと感じているんだろう。
「じゃあ、もしかして、夏川映人の彼女だったりします? あの写真って、完全に恋してる眼だったじゃないですか」
恋バナ好きの美優が嬉々として聞くと、その場の空気が固まった。
この雰囲気から、美優の予想は間違っているとわかるけど、こんなにも変な空気になるものなのか。
私も美優も、わからなかった。
「違うよ」
言葉で否定したのは、夏川先輩だ。
すると楪先輩が穏やかに、そして嬉しそうに微笑んだ。
「うん、違う。私は映人くんとは付き合ってない」
ここまではっきりと否定して、嬉しそうにしている理由が、まったくわからない。
「夏川映人とは……てことは、彼氏はいるんですか?」
楪先輩は少し頬を赤らめて、さっきよりもより柔らかく笑った。
今日一番の幸せそうな顔だと思いながら見惚れていると、シャッターの音がした。
音が聞こえたほうを向くと、夏川先輩が私たちにカメラを向けている。
「映人、それ送れよ」
夏川先輩の後ろから現れた黒髪のクールそうな人が、命令をした。
「わかってるよ」
「相変わらずの独占欲ですね」
夏川先輩も佐伯先輩も自然に話しているけど、雰囲気と格好から、近寄り難いと思ってしまう。
「今来たのが、私の彼なの」
楪先輩は可愛らしい表情のまま、私たちに聞こえるように囁いた。
「あの人が?」
思わず声に出してしまって、私は口を塞ぐ。
楪先輩が微笑んでいるから、その優しさに救われたと思った。
「いや、あの、悪い意味じゃなくて、美男美女でお似合いだなって思って」
慌てて弁明すると、楪先輩はますます笑顔になる。
「ありがとう、依澄ちゃん。すごく嬉しい」
本当に、優しさの象徴みたいな人だ。
私と同じように素直な人なのに、私とは全然違って、なんだか泣きたくなってしまう。
「よし、じゃあ行きますか」
メンバーが揃ったということで、佐伯先輩の声掛けにより、私たちはボウリング場に向けて出発した。
「そうだ、提案」
先頭を歩く佐伯先輩が手を挙げた。
「男女で分かれて、勝負しませんか」
弾んだ声なのに、みんなが賛成しないから、佐伯先輩の表情が少しだけ落ち込んで見える。
「いいね、やろう」
夏川先輩も楪先輩の彼氏さんも面倒そうにしているのに、楪先輩は乗った。
その一言で、佐伯先輩に元気が戻ってくる。
「負けたチームは、勝ったチームにケーキ奢ってね」
楪先輩が悪い顔をして、そんな提案までするとは思わなかった。
「それ、花奈が食べたいだけだろ」
隣を歩く彼氏さんがため息混じりに言うと、楪先輩は小さく頬を膨らませた。
「じゃあ、遥哉くんはなにが食べたいの?」
楪先輩の質問に、彼氏さんは答えない。
楪先輩は答えを迫っているけど、そんなことよりも、私は楪先輩の彼氏さんの名前を知らなかったことに気付いた。
そういえば、お互いに自己紹介をしていない。
「お昼ご飯を奢る、でいいんじゃない?」
名乗るべきか悩んでいると、夏川先輩が間に入って提案した。
みんなそれに賛成のようで、その話は終わり、適当に雑談をしているうちに、私たちは目的地に到着した。
滅多に来ない場所だからか、変に緊張する。
私と美優は夏川先輩たちの背を追って、中に入った。
今いるお客さんたちが倒すピンの音が聞こえてくる。
その大きな音に少し怯え、きっと二人揃って、物珍しいものを見ているような反応をしていることだろう。
「依澄ちゃん、美優ちゃん、ここに名前書いて。あだ名でもいいよ」
楪先輩に手招きされ、楪先輩が指すところを見ると、すでに『カナ』と書いてある。
私はその下に『いずみ』、美優は『サクラ』と書いた。
ゲーム代を支払って、靴を借りて、ボールを選ぶ。
「重た……」
美優が呟くのに頷き、私も美優も両手でそれを運ぶ。
新しい体験だらけで、まだ本番ではないのに、楽しくなってくる。
美優も同じらしく、私たちは顔を見合せて笑う。
「そうそう、遥哉くんたちの隣のレーンにしてもらったから」
楪先輩の進む先には、もう準備を終えた男子三人がいる。
遥哉先輩の容姿、雰囲気は女子の視線を誘うもののようで、楪先輩は若干不服そうにしながら、隣のレーンに進む。
楪先輩がしたようにボールを置き、頭上にある画面を見ると、私は目を疑った。
「ナツカワ1、2、3……?」
読み上げてなお、わからない。
「もう、佐伯くんは夏川じゃないでしょ」
「だって、二人とも名前決め面倒だからって、苗字にして、そしたら俺だけ仲間はずれになるんだよ? そんなの、嫌じゃん」
子供のような言い訳だけど、その言い方よりも、一つ気になることが。
「遥哉先輩も、夏川っていうんですか?」
「あれ、知らない? 遥哉くんと映人くんは兄弟なんだよ」
楪先輩は私たちが聞いているものだと思っていたみたいだけど、夏川先輩は二人増えることしか教えてくれなかったのだから、知るわけがない。
でも、言われてみると似ているような、似ていないような。
初めて夏川先輩に会ったときの、私を突き放すような少し冷たい視線は似ているかもしれない。
そんなことを思い返していると、楪先輩と遥哉先輩が同時にボールを投げた。
二人ともストライクという、最高の出だしだ。
楪先輩がピースサインをして喜ぶのに対して、遥哉先輩は表情を変えない。
二人が並ぶとたしかに絵になるけど、こうも正反対だと、恋人同士なのかと疑ってしまう自分がいる。
「次、依澄ちゃんと映人くんね」
私は緊張しながらボールを持つ。
遠くのレーンからピンを倒す音が聞こえて、それがまたプレッシャーのように感じた。
こんなに緊張するのは、久しぶりだ。
「大丈夫?」
横から、夏川先輩が心配そうに見てくる。
「……はい、大丈夫です」
自分にそう言い聞かせて、前を真っ直ぐ見る。
ボールを構えて、ゆっくりと歩を進め、さっきの楪先輩の投げ方を思い出しながら投げる。
いい感じに直進していたと思えば、最後の最後で曲がってしまって、六本倒すという中途半端な結果になってしまった。
「依澄ちゃん、いい感じ! 次で全部倒せるよ!」
楪先輩の大きな声援で、本当にできそうな気がしてくる。
戻ってきたボールを持ち、深呼吸。
そして残ったピンを目掛けて投げる。
当たる前からわかってしまったのだけど、ボールは一本も倒さずに奥に吸い込まれた。
「惜しい、惜しい」
席に戻ると、楪先輩がすぐにそんな声掛けをしてくれた。
おかげで、次も頑張ろうという気持ちになる。
そして電光掲示板を見上げると、夏川先輩がストライクを取っていたことに気付いた。
「憎たらしいよね、夏川兄弟。遥哉くんはサラッとストライクだし、映人くんなんか、写真を撮ることに集中してるくせに、ストライクなんだよ」
楪先輩は周りの音に打ち消されてしまうから、私の耳元で言った。
夏川先輩は準備をしている佐伯先輩にスマホを向けている。
先輩が写真を撮るようになってくれたのは嬉しいけど、勝負に集中していないというのは、少しムカつくかもしれない。
「ここは是非とも、映人くんのかっこ悪いところを写真に残さないと、だよね」
楪先輩は悪い顔をしている。
たしかに、今の私のガターが記録に残されているとしたら、夏川先輩の失敗が残らないのは、不平等だ。
こんなことはあまりしたくないけど、きっと、この人たちなら大丈夫な気がした。
「……ですね」
私たちがそんなやり取りをしている間に、美優がボールを構えた。
佐伯先輩も同じペースで歩き、ほぼ同時に投げる。
そして綺麗に、二人ともガターとなった。
美優は振り向き、頬を膨らませる。
「大丈夫だよ、美優ちゃん。次いける!」
楪先輩の応援は虚しく、もう一度ガター。
「つまんない」
まだ始まったばかりなのに、美優はすっかり拗ねてしまった。



