だけど、今なら、その選択が間違っていたのだとわかる。

 いや、本当はもっと早くから、わかっていた。

 すぐにでも訂正すべきだって。

 でも、一度逃げてしまったことで、この話題に触れるタイミングを失っただけでなく、逃げ癖のようなものが付いてしまったんだ。

 こればかりは、後悔してもしきれない。

「どんなことがあっても、ハル兄にはわかってもらおうとするべきだった」

 僕はハル兄のほうを見て、頭を下げる。

「……ごめん」

 僕の捻り出したような声の後に、沈黙が訪れる。

 僕には重たすぎる沈黙の中で、ハル兄はため息をついた。

 僕は思わず、身体をビクつかせる。

「心配して損した」

 険悪なムードになるだろうと身を構えていたから、ハル兄の安心したような声に、僕は反応に遅れる。

「心配って、なんで……」
「栄治は昔から、周りの様子を見て、状況次第では自分の言葉を飲み込むクセがあるだろ」

 そんなことはないと、言い切れなかった。

 僕が黙っていることで穏便に済むのなら、僕は進んで口を噤むことを、僕が一番わかっている。

 今回だってそれが原因だから、余計に否定できない。

「俺はその沈黙を、花奈が好きだとバレて困っているんだって思ってた」

 勘違いされているだろうとは思っていたけど、ハル兄から直接聞くと、余計に早く言えばよかったと思う。

 もう一度謝りたくなるけど、それは互いに困る空気になると思って、言わなかった。

 ハル兄は改めてため息をつくと、天井を見る。

「栄治と花奈を取り合う覚悟まで決めてた俺、バカだな」

 そんな覚悟をしていたなんて、知らなかった。

 でも、ハル兄が僕を避けるようになった理由が、少しわかった気がした。

 ハル兄は僕に怒っていたんじゃなくて、これ以上気まずくなりたくなくて、僕と距離を置いていたんだ。

「ハル兄、ごめん……ありがとう」
「いや、俺のほうこそ勝手に決めつけて、避けてごめん」

 言葉数はどちらも少なかったけど、なにを言おうとしているのか、今度こそ間違えずに受け取った。

 しかし、互いに謝って、気恥ずかしくなる。

「でも、なんで急にこの話をしようと思ったんだよ。俺の顔を見ると、すぐに逃げてたろ」

 耐えられなかったハル兄は、無理やりその空気を変えてきた。

 内容が意地悪だけど、そういえば、さっきそれの話があると言った気がする。

 僕がハル兄とちゃんと話そうと思った理由は、一つだ。

 話そうとしたとき、ふと、古賀の笑顔を思い出す。

「写真を撮りたいって、思ったから」

 僕が言うと、ハル兄はまた信じられないものを見るような目をした。

 そして、穏やかに微笑んだ。

「栄治、好きな人ができただろ」

 予想外の発言と表情に、僕は呆気に取られる。

 ハル兄がこんなことを言うなんて、思っていなかった。

「好きな人って、なんで……」
「表情が柔らかくなってたから。今、絶対その人のこと思い出したろ?」

 この、ハル兄の意地の悪い表情を、クールなイケメンと言っていた女子たちに見せてやりたい。