夏川先輩の新しい写真を見れる日も近いかもしれないという事実に心が踊っているのに、私はその感情を押し殺した。

 私がなにかを言えば、先輩は今の言葉をなかったことにしてしまいそうだったから。

 電車が目的地に着くまで、私は先輩に意識を引っ張られながら、咲楽と佐伯先輩と会話をしていた。

 電車を降りて五分程度歩くと、海が見えてきた。

「やば、海ってこんなに綺麗だっけ」

 咲楽は軽く感動しながら、早速スマホを取り出した。

 私も、咲楽と似たような感想を抱いた。

 電車からは見えなかった、踏み荒らされていない砂浜と、静かに揺れる水面。

 心地よい風が吹くと、穏やかな波音が聞こえ、潮の匂いがする。

 夏がやってくる前の海はこんなにも綺麗だったのかと、軽く感動すらする。

「依澄は撮らないの?」
「うん……」

 お母さんたちに入学祝いに買ってもらったデジカメは、カバンの中に入れてある。

 それを取り出す気にならないのは、この美しい景色を、カメラに収められる自信がなかったからだ。

 その変わり、しっかりと目に焼き付ける。

 ただ立ち尽くして海を眺めていると、佐伯先輩たちの背中が視界に入った。

 咲楽は律儀に待ってくれていたようで、私は咲楽と足を進める。

 海辺に近寄っても、私は海に見惚れるばかりだった。

 一定のリズムで砂浜を濡らしていく透明な海水。太陽の光が反射する水面。空との境界線が曖昧な青い海。

 私はようやく、カメラを手にした。

 海にレンズを向けて、シャッターボタンを押す。

 上手く撮れた気がしない。

 それでも、案外綺麗に撮れたかもしれないと思って、今撮った写真を確認しようとするけど、やり方がわからない。

 誰かに聞こうにも、咲楽は貝殻探しに集中しているし、佐伯先輩と夏川先輩はなにか言い合いをしながら写真を撮っていて、聞けそうにない。

 私は不安を抱えたまま、もう一度、海を写真に残す。

 今度は水面を写して見たけど、また自信がなくて、不安になる。

 やっぱり写真を確認したくなって、私は傍でしゃがみ、貝殻を探す咲楽の隣に座る。

「ねえ咲楽、撮った写真ってどうやって見るかわかる?」

 咲楽は自分のスマホと私のカメラを交換した。

 咲楽が操作してくれている間、私は咲楽が作業していたものを見る。

 羨ましいくらい器用な咲楽は、貝殻で可愛らしいハートを作っていたらしい。

 隣からは先輩たちの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

 私だけが、楽しめていない。

 そんな疎外感を感じてしまって、私は咲楽から受け取ったカメラで写真を確認しても、つまらないという気持ちでいっぱいになってしまった。