ゴールデンウィーク初日、私と咲楽は電車に揺られていた。

 窓際に座る咲楽は、退屈そうに欠伸をする。

「寝不足?」
「連休がやってくると思ったら、つい夜更かししちゃったんだよね」

 咲楽は欠伸をもう一つする。

 咲楽らしい理由に、つい笑みがこぼれる。

 余程その夜更かしが楽しかったのか、咲楽は弾んだ声で一通りの報告をしてくれた。

 簡単に言えば、ネットサーフィンから抜け出せなかったらしい。

 あのブランドの化粧品が気になるだとか、可愛い服を見つけただとか、今日の髪型はやってみようって思ったものだとか。

 私の理解が届かないおしゃれの話に、私は頷くことしかできない。

「それにしても、咲楽が撮影会に参加するなんて、思わなかった」

 咲楽が満足したタイミングで、私は話を変える。

 私がどれだけ夏川先輩の写真の話をしても、興味なさそうに相槌を打つだけだったから、余計に咲楽がここにいることが不思議だった。

「だって、人が少ない海だよ? 絶対映える」

 悪いことを企むような顔をしているのに、可愛らしく見えてしまうのが、咲楽のずるいところだ。

氷野(ひの)ちゃんも写真撮るの?」

 咲楽に質問を重ねたのは、佐伯先輩だった。

「私は完全にSNS用なので。自己満ってやつです」

 佐伯先輩は咲楽の前へ、そして夏川先輩は若干気まずそうにしながら、私の前に座った。

 結構強引なことをしてきたから、あまりよく思われていないんだろうとは感じていたけど、視線を合わさないようにされると、さすがに傷付く。

「こんにちは、夏川先輩」

 だからといって先輩を無視をすることはできなくて、私は笑顔を作る。

「……こんにちは」

 “それ以上は話しかけないで”

 そんな壁を感じさせるような言い方だった。

 お互いに言葉に迷い、なにも言えなくなる。

「夏川センパイは撮るんですか?」

 その空気感を壊してくれたのは、咲楽だった。

 少しありがたいと思いながらも、誰もが触れにくいところを遠慮なく触れてしまい、内心穏やかではない。

「いや、僕は」

 “撮らないのに、来たの?”

 咲楽の無言の圧から、そんな声が聞こえてきた気がした。

 夏川先輩もそう感じ取ったらしく、それより先を言わない。

「……佐伯の手伝いで来たから、撮らないよ」

 そして咲楽は、夏川先輩から写真に関わるという言葉を引き出した。

 私は反応したくて仕方なかった。

 でも、私がなにかを言って訂正されても困るから、必死に堪える。

「栄治、男に二言はないよな?」

 代わりに、佐伯先輩が肩を組み、確認をする。

 その表情には喜びが隠しきれていない。

 夏川先輩は嫌そうにしながらも「当たり前だろ」と答えていた。