◇
ゴールデンウィーク初日、私と咲楽は電車に揺られていた。
窓際に座る咲楽は、退屈そうに欠伸をする。
「寝不足?」
「連休がやってくると思ったら、つい夜更かししちゃったんだよね」
咲楽は欠伸をもう一つする。
咲楽らしい理由に、つい笑みがこぼれる。
余程その夜更かしが楽しかったのか、咲楽は弾んだ声で一通りの報告をしてくれた。
簡単に言えば、ネットサーフィンから抜け出せなかったらしい。
あのブランドの化粧品が気になるだとか、可愛い服を見つけただとか、今日の髪型はやってみようって思ったものだとか。
私の理解が届かないおしゃれの話に、私は頷くことしかできない。
「それにしても、咲楽が撮影会に参加するなんて、思わなかった」
咲楽が満足したタイミングで、私は話を変える。
私がどれだけ夏川先輩の写真の話をしても、興味なさそうに相槌を打つだけだったから、余計に咲楽がここにいることが不思議だった。
「だって、人が少ない海だよ? 絶対映える」
悪いことを企むような顔をしているのに、可愛らしく見えてしまうのが、咲楽のずるいところだ。
「氷野ちゃんも写真撮るの?」
咲楽に質問を重ねたのは、佐伯先輩だった。
「私は完全にSNS用なので。自己満ってやつです」
佐伯先輩は咲楽の前へ、そして夏川先輩は若干気まずそうにしながら、私の前に座った。
結構強引なことをしてきたから、あまりよく思われていないんだろうとは感じていたけど、視線を合わさないようにされると、さすがに傷付く。
「こんにちは、夏川先輩」
だからといって先輩を無視をすることはできなくて、私は笑顔を作る。
「……こんにちは」
“それ以上は話しかけないで”
そんな壁を感じさせるような言い方だった。
お互いに言葉に迷い、なにも言えなくなる。
「夏川センパイは撮るんですか?」
その空気感を壊してくれたのは、咲楽だった。
少しありがたいと思いながらも、誰もが触れにくいところを遠慮なく触れてしまい、内心穏やかではない。
「いや、僕は」
“撮らないのに、来たの?”
咲楽の無言の圧から、そんな声が聞こえてきた気がした。
夏川先輩もそう感じ取ったらしく、それより先を言わない。
「……佐伯の手伝いで来たから、撮らないよ」
そして咲楽は、夏川先輩から写真に関わるという言葉を引き出した。
私は反応したくて仕方なかった。
でも、私がなにかを言って訂正されても困るから、必死に堪える。
「栄治、男に二言はないよな?」
代わりに、佐伯先輩が肩を組み、確認をする。
その表情には喜びが隠しきれていない。
夏川先輩は嫌そうにしながらも「当たり前だろ」と答えていた。
ゴールデンウィーク初日、私と咲楽は電車に揺られていた。
窓際に座る咲楽は、退屈そうに欠伸をする。
「寝不足?」
「連休がやってくると思ったら、つい夜更かししちゃったんだよね」
咲楽は欠伸をもう一つする。
咲楽らしい理由に、つい笑みがこぼれる。
余程その夜更かしが楽しかったのか、咲楽は弾んだ声で一通りの報告をしてくれた。
簡単に言えば、ネットサーフィンから抜け出せなかったらしい。
あのブランドの化粧品が気になるだとか、可愛い服を見つけただとか、今日の髪型はやってみようって思ったものだとか。
私の理解が届かないおしゃれの話に、私は頷くことしかできない。
「それにしても、咲楽が撮影会に参加するなんて、思わなかった」
咲楽が満足したタイミングで、私は話を変える。
私がどれだけ夏川先輩の写真の話をしても、興味なさそうに相槌を打つだけだったから、余計に咲楽がここにいることが不思議だった。
「だって、人が少ない海だよ? 絶対映える」
悪いことを企むような顔をしているのに、可愛らしく見えてしまうのが、咲楽のずるいところだ。
「氷野ちゃんも写真撮るの?」
咲楽に質問を重ねたのは、佐伯先輩だった。
「私は完全にSNS用なので。自己満ってやつです」
佐伯先輩は咲楽の前へ、そして夏川先輩は若干気まずそうにしながら、私の前に座った。
結構強引なことをしてきたから、あまりよく思われていないんだろうとは感じていたけど、視線を合わさないようにされると、さすがに傷付く。
「こんにちは、夏川先輩」
だからといって先輩を無視をすることはできなくて、私は笑顔を作る。
「……こんにちは」
“それ以上は話しかけないで”
そんな壁を感じさせるような言い方だった。
お互いに言葉に迷い、なにも言えなくなる。
「夏川センパイは撮るんですか?」
その空気感を壊してくれたのは、咲楽だった。
少しありがたいと思いながらも、誰もが触れにくいところを遠慮なく触れてしまい、内心穏やかではない。
「いや、僕は」
“撮らないのに、来たの?”
咲楽の無言の圧から、そんな声が聞こえてきた気がした。
夏川先輩もそう感じ取ったらしく、それより先を言わない。
「……佐伯の手伝いで来たから、撮らないよ」
そして咲楽は、夏川先輩から写真に関わるという言葉を引き出した。
私は反応したくて仕方なかった。
でも、私がなにかを言って訂正されても困るから、必死に堪える。
「栄治、男に二言はないよな?」
代わりに、佐伯先輩が肩を組み、確認をする。
その表情には喜びが隠しきれていない。
夏川先輩は嫌そうにしながらも「当たり前だろ」と答えていた。