コージ視点 空白の期間。

だりぃ。という言葉が口癖の今日この頃。
目の手術とかマジでうぜえ。
なんで俺なんだよ。
普通の高校生はみんな元気に部活やって学校に行っているのになんで俺だけなんだよ。
心にぽっかりと穴が空いた気がした。
すきま風が吹く。
こーいうのがからっぽっていうのかな。
空を見上げるとどこまでも続く青い空。
手術終わったら、髪の毛を青に染めよう。
そう心に決めた。
空は果てしなく広く、無限だ。
空色にしたら、ずっとみんなのそばにいられるような気がしたんだ。
青は果てしなく広く深い海を連想させる。
そんな青は色の中で一番好きだと思ったからだ。

少しでも、大きく広い人間になれたらいいのに。
ボクシングを辞めてすっかり筋肉は落ちた。
中学までやっていた陸上をやろうにも激しい運動を控えなければいけないから、やることはできない。
俺の前には無しかなかった。
なんだろう。この感じ。俺の青春ってなんなんだろうな。
幼馴染のめぐみは相変わらず話しかけてくる。
俺は病気をして変わってしまったのに、彼女は変わらない。
これから、目の手術をして、その後、学校の勉強に追いつけるのだろうか。
それから、何をして過ごせばいいのだろう。
入院中はいつも空を見ていた。
退院したら、あの色を身に纏いたい。
だから、まず金髪に脱色して、その後青い色を髪に入れる。
青い春で青春か。やっぱり青しかないだろ。
でも、すぐ色落ちするって聞くからちょっと面倒だな。
あと、意外と黒い髪の色に近いから、青はある意味無難な色かもしれない。
脱色はするものの、青い色を入れると、黒髪に近い色になる。
まぁ、うちの学校の校則はそこそこ厳しいけど、何とかなるかな。

病院は退屈だった。最初はあまり見えない時期もあったけれど、だんだん視界は開けて、以前のように見えるようになっていた。全身麻酔なんて、初めての体験で、麻酔科医の説明や看護師、執刀医の手術の説明で、手術前は案外忙しかった。
手術の時間は無だ。知らないうちに眠って、いつの間にか終了している。
人生もそんなものなのかもしれない。

入院中同じ病棟の高校生と知り合いになった。彼女はケガのため短期間入院しており、近々退院予定らしい。
「退院したら、退院祝いとしてパーティーしない? 私女子高だから、男子の友達いないから、男子連れて来てよ」
「別にいいけど」
入院中だからメイクはしていないけれど、きっと陽キャといわれる部類の人種かもしれない。
めぐみとはタイプが違う。でも、この子はリハビリを頑張っていたから、多分努力家なんだろうとは思う。

少し長めに休みを取り、学校に行く。久々で緊張していた。
やっぱりみんな視線は髪の毛か。
結構この青色気に入ってるんだけどな。
幼馴染のめぐみは褒めてくれる。
校則違反はダメだと言われるかと思ったけど、案外寛容だな。
あいつは全然変わらない。背の高さも体格も雰囲気も中学のまま。
笑顔も子供の時から変わらない。ある意味羨ましいな。

「退院祝いするんだけどさ。近くの女子高の子と入院中知り合いになってさ」
その言葉に男子たちがどよめく。
「俺、行く!! 合コンだな!!」
数人の男子を引き連れて合コンみたいな退院パーティーに行く。

知らない人と、話すって微妙だなあ。
そう思っていると、隣に座った派手な女子がにこにこして話しかけてきた。
「青い髪、いいじゃん」
見るからにきゃぴきゃぴしていて、元気いっぱいだ。
きっといい出会いを探しに来たんだろうな。
俺がいい人なのかも微妙だし、連れてきた男連中がいい人なのかもわからない。
多分ここにいる女子たちにとってのいい人は俺たちが思っているいい人とは違うだろう。
外見の良さ、服装、おしゃれ度、会話のテンポ。全ての計算の中でいい人が決まる。
どこか冷めている自分がいた。

「連絡先交換しない?」
その後、何度か連絡を取り合っていると、周囲からはカップル扱いされていた。
付き合っているわけでもないんだけどな。
連絡を取っても、彼女との心の距離は遠く冷たく感じていた。


ふと、学校の廊下で軽音部の貼り紙を見つける。
ギター弾いてみたいな。そんな気軽な気持ちだった。
軽音部の扉を叩くと派手なメイクの女子が結構いて、歓迎してくれた。
今まで話したこともないタイプだったけど、新入部員として受け入れてくれてありがたい。
まるで、別世界だな。
この部屋は音が溢れている。
たくさんの音色が奏でられており、楽しそうにしている。
音を楽しむ。つまり、音楽ってことか。

「入部します」
入部届を出すと、青春してる感じがする。
こんな青春感覚は恥ずかしい。人に知られたら黒歴史扱いされそうだな。

でも、今までのボクシング部と違って女子も多いし、おしゃれな生徒が多い。
ここなら、青い髪も浮いた感じがしない。
メイクの匂いがツンとする。
また、外見でいい人をおしはかる女子たちだろうか。
でも、入部してみると、彼女たちは音楽に夢中で、それぞれの楽器を演奏する。
音に囲まれた時間は幸せだ。