ライブの後、3カ月くらいは経っただろうか。
相変わらず私の瞳に映るのはコージだった。
でも、もちろん一方通行の恋。
彼の本当の悩みも今だわからない。
体調が悪そうだけれど、それ以上何も立ち入れない。
帰宅途中珍しく懐かしい声がした。
「よう」
あっちから話しかけてくるのはいつぶりだろうか。
「よく、小さい頃、この河原で遊んだよな」
「そうだね」
急にどうしたのだろう。
笑顔はかわらないけど、顔色は悪い。
「今度またライブするから、来いよ。この前来てくれただろ」
「気づいてたの?」
「もちろん」
意外だ。絶対に気づいていないと思っていた。
私のことなんて、彼の瞳の端っこにも入っていないと思っていた。
コージの瞳にちゃんと映っていたんだね。
「ちょっと最近、つやのあるリップに変えただろ」
「気づいてたの?」
「あたりめーだよ」
コージが小石を河原に投げる。
「ボクシング辞めてさ、無気力になった時期もあったんだ。手術もして大変だった。でも、今音楽でみんなとつながってる」
「私は何も変わってないよ。中学の時から相変わらずだよね」
「それでいいと思う。俺は大切なものは変わらないでほしい派だから。出身の小学校とかこの河原とかこの街とか」
大切なもの……?
受け取り方によっては私のことを大切だと思っているのかな。
話せただけでもうれしいのに。別世界の彼と。
「別世界の人間だなって遠くから眺めてただけだよ。もう、口きいてくれないかと思ってた」
「一時期はヤケになってたけど、最近は新しい趣味も出来たし、落ち着いたよ。俺、実は病気になっちまって、体重が激減したんだ。毛身の毛も最近結構抜けるからヤバイヤバイ。皮膚科でクスリもらったレベル」
「大丈夫なの?」
「治ってる人もいるらしいから大丈夫だと思うけどな。めっちゃ食べてるんだけどな」
「そんなに食べてるのにこの痩せ方? 私なんてちょっと食べただけで太るのに」
「食べても太らない病気らしい」
また小石が水面をステップする。
「俺、お前と幼馴染で良かったって思う。話してるとなんか安心するしさ」
「そーいえば、彼女は?」
「実は、入院先の病院で知り合った人の紹介の女の子でさ。告白されたんだけど、自然消滅。高校違うし、自宅も遠いし、性格もよく知らない。そんな人と一緒いてもつまんないし。接点がなさすぎなんだよな」
「痩せているコージを見ると心が痛い。私にできることがあったら言ってよ」
「んじゃあ、俺のことをずっと忘れないこと。青い空を見たら青い髪の毛を思い出してよ」
「何それ、お別れみたいじゃん」
「別に。ただ、言っただけだよ。もし、進学しても就職しても県外に行っても、ずっと忘れないでほしいってことだよ」
「大丈夫。ずっと忘れないよ」
二人の視線が交じり合う。恋の始まりみたいなふわっとした感じがよぎる。
彼の瞳の中に私がいて、私の瞳の中に彼がいる。
幸せな時間がゆっくり過ぎる。
別世界の人間じゃなかった。
彼は私と同じ時間を生きているんだ。
手と手を重ねて河原で夕陽を浴びる時間は多分――生涯忘れられない時間となるだろう。
相変わらず私の瞳に映るのはコージだった。
でも、もちろん一方通行の恋。
彼の本当の悩みも今だわからない。
体調が悪そうだけれど、それ以上何も立ち入れない。
帰宅途中珍しく懐かしい声がした。
「よう」
あっちから話しかけてくるのはいつぶりだろうか。
「よく、小さい頃、この河原で遊んだよな」
「そうだね」
急にどうしたのだろう。
笑顔はかわらないけど、顔色は悪い。
「今度またライブするから、来いよ。この前来てくれただろ」
「気づいてたの?」
「もちろん」
意外だ。絶対に気づいていないと思っていた。
私のことなんて、彼の瞳の端っこにも入っていないと思っていた。
コージの瞳にちゃんと映っていたんだね。
「ちょっと最近、つやのあるリップに変えただろ」
「気づいてたの?」
「あたりめーだよ」
コージが小石を河原に投げる。
「ボクシング辞めてさ、無気力になった時期もあったんだ。手術もして大変だった。でも、今音楽でみんなとつながってる」
「私は何も変わってないよ。中学の時から相変わらずだよね」
「それでいいと思う。俺は大切なものは変わらないでほしい派だから。出身の小学校とかこの河原とかこの街とか」
大切なもの……?
受け取り方によっては私のことを大切だと思っているのかな。
話せただけでもうれしいのに。別世界の彼と。
「別世界の人間だなって遠くから眺めてただけだよ。もう、口きいてくれないかと思ってた」
「一時期はヤケになってたけど、最近は新しい趣味も出来たし、落ち着いたよ。俺、実は病気になっちまって、体重が激減したんだ。毛身の毛も最近結構抜けるからヤバイヤバイ。皮膚科でクスリもらったレベル」
「大丈夫なの?」
「治ってる人もいるらしいから大丈夫だと思うけどな。めっちゃ食べてるんだけどな」
「そんなに食べてるのにこの痩せ方? 私なんてちょっと食べただけで太るのに」
「食べても太らない病気らしい」
また小石が水面をステップする。
「俺、お前と幼馴染で良かったって思う。話してるとなんか安心するしさ」
「そーいえば、彼女は?」
「実は、入院先の病院で知り合った人の紹介の女の子でさ。告白されたんだけど、自然消滅。高校違うし、自宅も遠いし、性格もよく知らない。そんな人と一緒いてもつまんないし。接点がなさすぎなんだよな」
「痩せているコージを見ると心が痛い。私にできることがあったら言ってよ」
「んじゃあ、俺のことをずっと忘れないこと。青い空を見たら青い髪の毛を思い出してよ」
「何それ、お別れみたいじゃん」
「別に。ただ、言っただけだよ。もし、進学しても就職しても県外に行っても、ずっと忘れないでほしいってことだよ」
「大丈夫。ずっと忘れないよ」
二人の視線が交じり合う。恋の始まりみたいなふわっとした感じがよぎる。
彼の瞳の中に私がいて、私の瞳の中に彼がいる。
幸せな時間がゆっくり過ぎる。
別世界の人間じゃなかった。
彼は私と同じ時間を生きているんだ。
手と手を重ねて河原で夕陽を浴びる時間は多分――生涯忘れられない時間となるだろう。