橋本来斗。同じクラスになった事はないが、来斗は、男女だれとでも屈託なく話し、文化祭でも体育祭でも、いつもクラスの輪の中心にいる目立つ生徒だった。

「えっと」

まさか、来斗に気づかれているとは思っていなかった。

「何?まさか気づかれてないとでも思ってた?」

「悪い?そのまさかだけど!」

ぷっと来斗が、笑う。

「結構バレバレだったけどな。夏音、プールサイドの柵周りに園芸部が、植えてる向日葵の花書いてるように装ってたけど、俺、息継ぎするたびに目が合ってたし」

早速、私の事を呼び捨てにする来斗に、小さく鼓動が跳ねる。

「どうせ嘘でしょ?」

私は、なんて事ない顔で返事をしてみせる。

「あはは。バレた?嘘!でも時々目が合ってたのはホント」

ドキドキを隠すように、ケタケタと無邪気に笑う、背の高い来斗を私は、睨みあげた。

「なんかムカつく」

「で?」

「何よ?」

「何でスケッチブック捨てたの?」

私は、途端に来斗から視線を外して、くっきりと見える青空と海との境界線を眺めた。

「言いたくない」

「は?勝手に肖像権の侵害しといて、偉そうじゃん」

「てゆうか、来……斗、こそ部活は?」

できるだけ、自然に来斗の名前を呼んだつもりだが、恥ずかしさと違和感が、ハンパない。