あれから幾つもの夏を繰り返して、私には大切な家族ができた。私は、主人の経営する海の見えるカフェの一角で、駆け出しの画家として、オリジナルのポストカードを作成販売している。

一度は諦めた夢を来斗に再会してから、私はもう一度追いかけている。最近、ようやく文房具店からポストカード販売の声がかかり、少しだが納品先もできた。

元々風景画が好きな、私が、最近描いているのは、全て海をテーマにした絵ばかりだ。

私が、今までに人物を描いたのはたった一人だけ。

それは、主人でもなければ、我が子でもない。海で出会って、海で別れたアイツだけだった。

「ママー」

後ろから、小さな掌が私に抱きついてくる。

来海(くるみ)どうしたの?」 

「ママのえ、だいすき」

ニカっと笑う我が子は、名前のせいだろうか?ふとした瞬間にアイツを思い出す。

また来世も海で貴方に出会いたい、そう願いを込めて、息子にこの名前をつけた。

窓を開ければ、潮風にのって、今日も海は、夏の思い出を運んで来てくれる。

私は、我が子の小さな体を抱き締めると、水平線の向こうで、きっと同じ景色を見ている貴方を想って波音に耳を傾けた。


いつかまた出会えますように。

そして次は、もう二度と離れたりしないように。間違えたりしないように。


私は、来世でもきっと貴方に恋をするから。