「ずっと、来斗が忘れられなかった。本当に、好きだったの」 

「俺もだよ。ずっと好きで忘れられなかったから」

来斗は、私の涙を親指で(すく)うと、私から体を離し、ズボンのポケットから、それを取り出した。 

「五年前もしたよな。線香花火」

来斗が、切長の瞳を細めると、私に一本渡してくれる。

「五年ぶり、線香花火」

「俺も」

夏の海で、付き合い始めた私達は、別れ話をしたのも、夏の海だった。毎年、夏になると、浜辺で来斗と手持ち花火を楽しんだが、線香花火だけは、しなかった。

「俺、線香花火といえば、夏音だわ」

来斗が、ポケットからライターを取り出すと、先に煙草に火をつけた。

「あれ?来斗、タバコやめたんじゃなかったんだ?」

「夏音が、うるせぇから、夏音の前でだけ、吸ってなかっただけ。別れてから、速攻で本数増えたわ」

冗談ぽく、明るく話す来斗の顔はやっぱりうまく見れない。別れた時の夏の夜を思い出す。あの時も、涙を堪えるのが精一杯で来斗の顔が見れなかったから。最後、来斗は、どんな顔してたんだろう。

「ほら、点けんぞ」

来斗の持つ線香花火に重ねるように、自分の手元を寄せると、来斗は、二本の線香花火に同時に火をつけた。

すぐに、小さな火の花が咲いて、やがて満開に燃え盛る。パチパチと聴こえる火花の音が、来斗への恋心も一緒に()ぜて飲み込んでいく。

「ねぇ、来斗、線香花火、私が嫌いな理由、覚えてる?」