来斗から、アイツという言葉を聞いた瞬間、涙が浮かびそうになる。

ーーーーもう五年だ。

来斗が結婚して子供がいたっておかしくもなんともない。それでも、夏が来るたび、海を見るたび、私の心の隅っこには、いつも来斗が居たから。

「陸奥さん、次の納品これ?」

顔を上げれば、来斗が、事務所横の、海外製マスクの記載の入った段ボールを指先した。

「そうよ、それで来斗君は、最後よ、朝からご苦労様」

段ボールを軽々二箱持ち上げると、来斗が、目を細めて笑った。

「夏音、残りの段ボール一箱持ってきてよ」

「え?」 

「陸奥さん、夏音借りていい?」

和穂は、私と来斗の顔を交互に見てから、すぐに頷いた。

「いいわよ、今日は、元々研修みたいなモノだし、積もる話でもしてらっしゃいな」

「ありがと、陸奥さん。じゃ夏音、早く来いよ」

私は、慌てて立ち上がると段ボールを抱えて来斗の後ろ姿を追った。