落とさなくても、志築の命令違反した時点で二人とも怒られるんじゃ……と言いかけてやめる。

せっかく相互合意の上で屋敷を抜け出したのだ。契約は至ってシンプル。文の内容の開示と幸太は私に手を貸す代わりに、私が霊印家の当主になった暁には夏宮の当主推薦状を幸太にして欲しいと言った。


ーーーー私は二つ返事でオーケーを出した。

文の内容は、今夜二時、三鈴家の構える三鷹の別邸で三鈴封水(みすずふうすい)氏が志築にある人物と会わせるとの話だった。


その人物とは御津宮真遥(みつみやまはる)。志築の双子の兄であり、影縫師(かげぬいし)にその身を堕とした姉の婚約者。

姉は、婚礼の儀直前に自殺した。私はずっと真遥を探してた。理由は単純。姉は自殺するような人ではなかったから。

一族の繁栄とよりよい霊力の継承のため良家へ嫁ぎ、子供を産み育てる。小さな頃から聞かされていた当たり前の人生の筋書きだ。

例え恋仲だった志築と結ばれなくても、姉はどんな相手とでも嫁入りし、子供を産み育てること覚悟していたと思う。それなのに……。

姉は、優しくていつも笑顔だった。ちゃんと、笑ってね、が口癖だった。