礼衣は、俺のシャツの裾を強く握ったまま、叱られた子供みたい暫く泣いた。

俺は、細い肩を抱いて背中を摩ってやるしかできなかった。

ーーーー本当に俺は、無力だと思った。

御津宮の家を捨てて、礼衣と二人で何処へでも行けば良かったのかもしれない。そうすれば、真遥も、影縫師に堕ちずに、すんだのかもしれないし、礼衣だって死ななかったかもしれない。

俺は、いつも大切なモノに限って守れない。

真遥も礼衣も。


『志築……ひっく……どこか知らないとこに連れて行って』

この時の礼衣の『どこか』は、きっと本当にどこでも良かったんだと思う。

どこでもいいから連れて行ってやれば良かった。

最初で最後の礼衣の『願い』だったのに。


ーーーー次に俺が、礼衣を抱きしめた時は、礼衣は、もう息をしていなかった。俺に笑ってもくれなければ、涙すら流してもくれなかった。冷たくて、ただ、衣が赤く染まっていた。

すぐそばに、立っていた真遥は、満月の光を浴びて笑っていた。おぞましいほどに冷たく、憎悪に満ちて、それでいて美しく、ただ笑っていた。


ーーーー俺は何も出来なかった。

ーーーー何を間違えたんだろうか。

二人を救うことは出来なかったんだろうか。考えても仕方ないことに限って頭から離れない。

どんなに時が流れても。

ずっと心に染みついてるんだ。