ーーーー夢を見た。

礼衣の夢を。何度も見る夢。現実の夢。夢であることを願う夢。

『私、結婚するんだ』

さらりと発せられた礼衣の一言に一瞬、言葉を忘れたかのように頭が真っ白になった。

『え?』

『志築のお兄さん、真遥君との婚約が決まったって昨日親に言われたの』

礼衣が少しだけ俯く。

ーーーー真遥と、礼衣が結婚? 

『仕方……ないよね、親が決めた人と結婚するのが当たり前の世界だし……。ずっとそうだと思ってたし。……真遥君は、ほとんど話したことないけど、同い年で当主で、すごく優秀だし、家柄だって……私には勿体無い位だよね。……でもね……でもね……』

 
ーーーー礼衣の瞳からポタリと雫が落ちた。


『でも……ほんとはね……志築が良かったの……』

 礼衣は、両手で顔を覆って震えて泣き出した。

俺は、気づいたら抱きしめていた。華奢な礼衣は力を込めると、ガラス細工みたいにすぐに壊れてしまいそうだった。

『志築、ひっく……好きだよ……』

今でも忘れられない。
礼衣の消え入りそうな、小さな声。

『礼衣……』