「アイツさ、どんだけ抱え込んでんだろうな」

「わすか17歳で御津宮の当主に就かれて、僕が分家筆頭になって2年ですが、愚痴一つ溢されたことは無いです。ただの一度も」
 

僕は、堪えきれずに、小さな溜息を吐き出した。

「…どこからしんどいのかわからないか。…もっと我儘言ってくれたら簡単なんだけどね」

康介が、冬空に向かって肺に入れたモノをふうーっと長く吐き出す。
  

「お前、礼衣ちゃんのこと、いつから知ってた?」 

「……2年前、分家筆頭を父から受け継ぐ時に申し送りの一つとして聞きました。志築様のお父様や僕の父、一部の上役しか知らないことです。……父から聞いたこと……黙っておられず志築様にも話しました。」
 
「志築は?」

「そうか、とだけ仰って何も話そうとはなさりませんでしたが……」

そう答えると、僕は2本目の煙草を咥えた。
 
「俺さ、礼衣ちゃんは真遥と婚約しただろ?ま、親同士のよくある良い血筋を残す為とかそういう結婚だよな。志築と付き合ってたのは知ってたけど、自ら命落としたって聞いてたから……やっぱ心の折り合いつかなくて、そういうことになったのかなと思ってたけど、原因が真遥とはな……」