「志築はさ、長子至上主義の御津宮家の次男坊だろ。幼い頃に母親を亡くして、婿養子の父親も根っからの御津宮の信者だ。志築は、親の愛情なんてほとんど知らずに育ってる……有無を言わせず与えるものだけ与えて、せまい箱の中で一人で育ったから」
そう、志築様は、誰かにちゃんと甘えられた時期などあったのだろうか。
「腫れてた?」
丁寧に手入れされた楓が、無数に凛と佇む庭園を眺めながら、康介が、自身の右頬を指差した。
「……少し腫れていらっしゃいましたが、お疲れだったのか……今は、眠っておられます。」
「……そうか」
「……殴られたのは初めてでしょう?」
僕が、康介の瞳を見上げると、康介は、志築を殴った左掌をじっと見つめていた。