「志築?」

志築は、唇を結ぶと、組んだ足に視線を落とした。

ーーーーなんだ?志築の纏う空気が変わる。志築には元々天性のカリスマ性がある。人を惹きつけて離さない。唯一無二の存在。真遥が闇ならば、志築は、光だ。

御津宮家当主には、志築しか有り得ない。

俺は今まで、志築がいるからこそ、御津宮家につき従ってきた。志築が当主であるかぎり、俺は志築の盾となる。命なんて惜しくない。この思いだけはカタチが変わる事はないだろう。

「大丈夫か?志築?」

「志築様?」

融も同じ事を感じているのだろう。志築は、下唇を湿らせてから、重い口を開いた。

「……影縫師に堕ちたことは、俺にとって重要じゃない。アイツはヒトじゃないんだ。神になりそこなった化け物だよ」  

「?……どういうことだ?」

「……康介、……ずっとお前に言ってないことがある」

志築が、俺の瞳を真っ直ぐに見つめて映す。霊力が込められている訳でもないのに、その神々しさに、僅かに息を飲んだ。

「何だ?」

「……志築様……」

融は、既に知っているのだろう。両手を握り締め、俯きながら下唇を噛み締めている。

志築が、低く掠れた声で、ボソリと呟いた。

「……六年前、アイツが……真遥が……礼衣を殺した」

一瞬、その言葉を飲み込む前に、吐き出しそうになる。

「……っ、何言って……」

静かに言葉を吐き出した志築は、膝に視線を落とすと、血管が浮き出るほど、両の掌を握りしめた。

「冴衣には話してない……どうしても話せなかった。だから置いてきた」

「そんなこと……嘘だろ……」
 

ーーーー(あの真遥が……婚約者の礼衣ちゃんを?)