東京郊外調布、辺りを紅葉の樹々に囲われた三百坪は優に有する邸宅がある。あたりの山林を古くから所有し、初代秋宮当主が、この地に建造したのは江戸時代と言い伝えられている。

黒壇で揃えられた調度品に本革の黒のソファーが並べられている応接間で今夜の三鈴家との対応が議論されていた。

「それで?本当に……アイツが、真遥(まはる)は来るんだろうな?康介」

ソファーに悠々と腰掛け、長い足を組み直しながら、志築が口を開いた。

「冴衣ちゃん無しで、どこまで話が出来るかはわからないけれど、ま、わからないことだらけだよね。なんで今なのか。なんで冴衣ちゃん連れて来い、なのか」

俺は、コーヒーカップに手を伸ばすと角砂糖を一つ落とした。 

「いままで雲隠れしてたアイツが急に三鈴家通して俺らに接触ってのは、絶対裏がある。康介、夏宮別邸の結界は厳重にしてあるよな?」

「冴衣ちゃんが心配?大丈夫だよ。俺も結界を張っておいたけど、着いたら霧矢にも重ねて張るよう伝えておいたから。冴衣ちゃん自ら屋敷から出ない限り、まず見つからない筈だし手出しは難しいと思うよ」

アイツに、スマホでラインしながら、俺は、コーヒーカップ の中をスプーンをかき混ぜた。

「志築様……三鈴家の者も、僕たちが素直に冴衣様を連れてくるとは鼻から思っていないはず。まだ彼らの狙いがわかりませんが。接触できるのならば又とない機会かと」

紫色の瞳が、真っ直ぐに志築を見つめる。

「そうだな……。真遥が約束通り来ればな」 

なぜだろうか?志築の声色が酷く冷たく感じる。 

「なぁ、志築?前から聞きたかったが、なんで真遥にそこまで拘る?兄貴だからってのと、影縫師に堕ちたからってだけか?」

俺の言葉に、一瞬志築の視線が揺れた。