「冴衣ちゃんは、あたたかいお茶で良かったかしら?」

甘い香りと耳馴染みの良い優しい声が、心地よい。

「はい、有難う御座います。」 

「霧矢は、いつものブラックね。」

縁側の椅子に腰掛けた霧矢は、美雪さんに向かって軽く会釈をした。 

少したって、お茶とコーヒーを私たちの元に運び終わると、美雪は、お昼の準備をしてくるわねと再び席を外した。

「ふぅ……美味しい……」

あたたかい緑茶が胃に染み渡る。

「あちっ……ふぅ、ふぅ……」

隣を見れば、幸太がコーヒーカップの淵に唇を当て、何度も息を吹きかけている。  

「猫舌治んないね。アイスにしてもらえば良かったのに」

ジロリと幸太に睨まれる。 

「うるせーな、……いまさら言えるかよ」

やや頬を赤らめた、幸太が、ぶっきらぼうに答えた。 

「……別に、ホット飲むから大人に見えるって訳でもないと思うけど?大体お砂糖ふたつも入れてもらって」

「冴衣、黙れ!」

あちちっと声を漏らしながら、再び、幸太がコーヒーを口にした。

「……アイツのどこがいいんだよ。」

幸太の目線の先には、縁側の椅子にゆったりと腰掛、枯山水を眺めながら、ブラックコーヒーを楽しんでいる霧矢の姿があった。 

「……へぇ、やっぱそうなんだ」

「あぁ、半年位前位からかな……康介さんから聞いた。だから、アイツは、ここにちょくちょく来てんだよ」

心底面白くなさそうに、ため息混じりに幸太が呟いた。   

「だから夏宮の当主に拘るの?」

「……まあな。俺の意地だ」