「疲れたでしょう、冴衣ちゃんは、久しぶりね」
「ご無沙汰しております」
「いつも康介のこと有難うね」
「いえっ、そんな全然っ」
同じ女性同士でも、美雪の声と表情にドキッとしてしまう。
外面も内面も含めて「美人」という言葉はこういう人のためにあるんだと心から思う。本当に清廉潔白という言葉がふさわしい、凛とした女性だ。
「さて、また二人は、喧嘩中かしら?」
霧矢と幸太を交互に見ながら、美雪が笑う。
「……美雪さん、マジで兄貴が悪いんだって!
俺に痛いとこつかれたもんだから、ムキになってんの!胸ぐらまで掴まれたんだぜっ」
「幸太、……いちいちつまらない事の詳細を美雪に報告する必要もないだろう」
静かにそう言うと、縁側の方へと霧矢が立ち上がった。
(……美雪……)
霧矢さんが、美雪さんを呼び捨てにしたことに違和感を感じた。
「なんだよ、美雪さんの前じゃ、大人ぶりやがってさ」
「相変わらず、困った人たちね」
不貞腐れる幸太を見ながら、美雪が、ゆるりと笑った。彼女が笑う度、彼女自身の香りと共に部屋全体の心地よい甘い香りが鼻を掠める。
「疲れたでしょう、いまお茶を用意するわね。」
「あ、俺コーヒー。甘いやつ」
遠慮なしに、胡座をかきながら、幸太がスマホ片手に注文する。