左右を竹林に囲まれた、坂道を登り切ると、丁寧に手入れされた生垣を見えた。やがて石畳のアプローチが続き、檜造りの門扉を抜けると、車は静かに停車した。

女中数人が、左右分かれて、頭を下げて出迎える中、中央に淡い薄桃色の三つ紋の着物に銀色の帯を身に纏い、細身のスラリとした女性が、出迎えてくれていた。綺麗に結えた黒髪と、椿のような上品な赤の口紅がよく似合う。康介とよく似た、切長の赤い瞳が、こちらを見て、にこりと微笑んでいた。

冬宮美雪(ふゆみやみゆき)。冬宮康介の実姉だ。美雪は名門冬宮家の長女として生まれたが、霊力を持たない父親の血が色濃く、霊力はほとんどない。今でも、結界が、薄く見える程度だという。

「ようこそお越しくださいました。さ、こちらへ」

美雪の案内で、広い玄関を入り、長い廊下の左手の大広間へと案内される。二十畳は、あるだろうか。檜の良い香りが広間中から香り、重厚な掛軸の袂には美しく生けられた椿が甘い香りを漂わせていた。 

光を入れるために、開けられている障子の向こうには陽の光に照らされた、美しい枯山水が広がり、薬師如来に、例えられた縦長の御石を、中心に椿が、絶妙な配置で植えられていた。

この椿が、屋敷を紅に染めるように、美しく咲くことから別名「紅の屋敷」と呼ばれている。 

小石は、丁寧に整えられており、右へ左へと人の手に寄って湾曲したそれは、まるで悠久の川の流れそのものだった。