「夏宮本家の玄関先に、矢文で届きました、一昨日の夜中だと思います。朝の掃除の際に、女中が気づきましたので。」

「康介、中身見たんだろ?どう思う?」   

「俺は、本物だと思うよ」    

「根拠は?」 

「視てきた」

「誰だった?」

康介の目を、射抜く様に目線を合わせる。

「三鈴家の長女、華乃(かの)だった」

「間違いないよな?」   

「志築ー、誰に言ってんの?」 

口調こそ穏やかだが、俺の事を煽る様に挑発してくる。

ーーーー康介の能力の一つだ。 

直近二十四時間以内ならば、ある一定の条件の元、その時に見たいもの、見たい人物を、冬宮家の御神体である神鏡を通して遡って「視る」ことができる。

簡単にいえば、ビデオ録画のようなものだ。ライブで直接見れない物、風景、人物を鏡を通して後から「視る」のだ。 

(だから、昨日の狩りが、俺と冴衣だった訳だ。) 

「りょーかい」

届いたのが夏宮家か。なるほどね、一番結界の綻びが出易いのが、夏宮家だ。どの分家も勿論厳重に結界を張ってあるから、同業の影縫師達もそう易々とは、外部から接触は難しい。矢文と言えども、結界の僅かに薄い隙を狙うしかないだろう。

夏宮家本家は、女中含めかなりの大所帯だ、人の出入りがあればある程、結界は、綻びが出やすくなる。