「お前ら、次やったら……俺の夏宮家の次期当主推薦状は、末弟の隼也(しゅんや)にくれてやる」

いいことを思いついた。俺は、ゆるりと口角をあげる。霧矢の顔が一瞬で変わる。

「志築さん……それだけは……以後気をつけますので」

全身黒尽くめの男は、斜め四十五度ぴったりに頭を下げ微動だにしないまま、やや低く掠れた声で答えた。 

「当主っ!しゅんに夏宮の当主やるとかマジで勘弁してよっ、痛てっ!」

先に頭を上げた幸太を、霧矢が、容赦なく首根っこを掴み、力づくで、再び深々と頭を下げさせる。  

「幸太っ、当主に言う事があるだろう!」

「……当主、すいませんでした……」 

これはマズイとさすがに悟ったようで、幸太は、長身を折り曲げ、金髪の頭をより深く、地べたに着きそうな程に下げた。

「はいはい、これでおしまい。いいよね?志築?」

康介が、わざとらしくパンパンと手を叩いて、にこりと、俺に視線を投げた。

「……わかったよ。頭上げろ。この件は終わりだ!」

無事無罪放免となった瞬間に、霧矢と幸太が互いの顔を見て、にやりと笑う。

ったく喧嘩する程とかなんとか言うけどコイツらの場合はどうだろうな。いまこの瞬間にも、互いの笑顔の中には勿論、我こそが当主だと牽制し合っているのは明白だ。

「さてと、ちょっと志築に見せておきたい物あんだよね。あれ出して、霧矢」

康介に促され、霧矢が黒のスーツの胸ポケットから一枚の文を俺に差し出した。

真っ白い和紙に包まれていたが宛名はない。

これが先程、康介が言っていた三鈴家からの接触の件か、幾重にも折り畳まれた文を開くとざっと、視線を流していく。

「……これいつきた?どこに?」

俺は、視線は、そのままに、霧矢に問いかけた。