冴衣(さえ)ー、おまたせっ」  

お待たせなどと露ほども思っていないであろう
、暢んびりとした口調で茶髪の長身が、こちらに右掌をひらひらとさせている。

御津宮志築(みつみやしづき)。全国の影狩師の頂点に立つ、御津宮家24代目の若き当主だ。

黒のチェスターコートに、上下黒のスウェット姿に白のスニーカーというカジュアルな服装で現れた志築は、端正な顔に茶がかかった瞳を持ち、その長身とスタイルの良さから何も知らない人達はモデルか、はたまた新人俳優か、等と思うのだろう。

コイツの人間性を知らない人が、心の底から羨ましい。

「遅い!たまには時間を守ろうとはおもわないの?志築!」

「また怒ってんの?冴衣、俺にもイロイロとあるのわかってるでしょ」

ポイッとこちらに向けて投げられたのは、ポケットカイロだった。冷え切っていた指先がじんわりと熱を帯びていく。

「当主だからって関係ないっ!大体、志築は、全部が緩いの!だらしないのっ!」 

「……俺にさぁ、毎度毎度、誹謗中傷浴びせてくんの冴衣位だけど」

「あ、そう!でも皆!そう思ってる!言わないだけ!」  

「皆って。大体それってその人だけの主観ってやつじゃない?」


はぁ。ーーーー売り言葉に買い言葉だな。