「ね、冴衣ちゃん、ほっぺたの件、知ってる?」

冴衣は、黙って小さく首を振ると、どんどん歩みを早めて遠ざかっていく。

(おい、待てよ。コイツと2人きりにしてんじゃねぇよ)

「転んだ、って訳じゃないよね。明らかに切り傷だしねー?」  

「…………」

「ねー?しーちゃん、聞いてる?」

「康介!その呼び方すんなって言ってんだろ!」

ようやく、目線を合わせた俺を見ながら、康介が、満足気に口角を上げた。

「でもさ志築がさ、まさか狩り行って?それも怪我してくるなんて驚いたよな。なぁ、志築も怪我するようになったんだ?」 

「康介!マジ黙れ!ちょっと……女と揉めたんだよ!そんだけ!」

ヒューッと白々しく口笛を吹くと、康介はそれ以上の追及をやめた。

というより、察した、という方が正しいだろう。康介は、恐ろしく勘が良い。恐らく俺の頬の傷を見ただけで、三鈴家や、時司家との関係がないか、すでに動いてる筈だ。さっきスマホを一瞬触ったのは、恐らくそれだろう。

康介が、冴衣が曲がり角を曲がったのを確認してから、俺の耳元に唇をよせた。

「志築、三鈴家から接触があった、お前の探してるヤツの件で」

俺は、一瞬で頬がピリッと引き攣った。