「おい、いいか冴衣。コイツの言うことは金輪際無視しろ」

康介の顔に、人差し指を突きつけて、釘を差した俺に、すかさず康介が、いつものおれにはないモノを見つける。

「……志築、ほっぺた、どした?」

いいもの見つけた、とばかりに、ニヤニヤすると、その傷をさらに間近で見ようと康介が俺に顔に寄せてくる。

「近いんだよ、見んな!」

慌てて左掌で頬を隠すと、あからさまな嫌悪感と共に俺は、康介から、そっぽを向いた。

「つれないな、恥ずかしいの?」

康介は、スラックスからスマホを一瞬だけ取り出して、すぐに仕舞う。

「んな訳ねーだろっ!」

康介の左掌が乗せられている右肩を大袈裟に回して振り払う。毎度毎度、マジでウザい。
助けを求めて、冴衣を見れば、スマホ片手に知らん顔だ。


エレベーターが九階に到着し、吐き出すように三人を下ろす。会議室は、この通路を真っ直ぐ歩いて、向かって右手だ。  

「んーと、昨日の夜は《《俺が行ったほうが》》良かったかな?」

考え事をするポーズを取りながら、康介がなおも平然と俺に話しかける。俺はそっぽを向いたまま、完全に無視を決め込んた。

「志築?」

「…………」

「冴衣ちゃんにちょっかい出して、やられちゃった?」

「……………」

「なぁ、志築ー」

悪戯っぽい視線を投げかけながら、俺の反応をここぞとばかりに楽しんでいる康介に段々と我慢の限界が近づいてくる。

(あー……朝からコイツに見つかるなんて、マジで、ツイてねぇな)