国立新美術館のエントランスを潜りながら、
昨夜と同じ黒のワンピースに黒のノーカラーのコートを纏った私は、志築を見上げながら、小声で怒鳴りつけていた。

(もう、まったく)

私は、朝から溜息をいくつ吐いただろうか。
低血圧の志築はもっぱら朝が弱い。泊まっていたホテルの部屋を、隣同士にしておいて正解だった。

自身の身支度を終え、志築の部屋のインターホンを、会議開始二時間前から鳴らし続けて、なんとか部屋の鍵を開けさせることに成功し、 
冴衣を部屋に入れるや否や、自分はすぐさまベットに逆戻りで、二度寝しようとする志築を叩き起こして、口にパンをつっこんで、歯を磨かせ、本家からホテルの部屋に届けさせていた真新しい焦茶のイタリア製高級スーツを着せて、顔とスタイルだけが取り柄の男を、ようやく、ここまで引っ張ってきたのだ。  


「冴衣ー、俺当主だからさ〜。最後でいいの!間に合えばいいの」  

今日の志築は、低血圧だからなのか、やや前傾姿勢だ。