そして、いつか冴衣にもあの日の事を話さなければならない。冴衣が、望むなら、冴衣には知る権利があるのだから。

そう思っているのに、時が経つにつれて、伝えようと思うたびに、言葉を忘れたかのように何にも出てこない。

今更どう伝えたらいいかもわからない。

あの事を、あの時の礼衣を、俺は、どうしても冴衣に伝えることが出来ない。

冴衣に、俺みたいな思いは、どうしてもさせたくないから。それに礼衣の事をこれ以上、冴衣に背負わせるのは違うと思う。 

俺だけで充分だ。


ーーーー俺がアイツを探して、殺す。


それだけだ。俺のエゴなのだろうか。冴衣だけは、心がキレイなまま笑ってて欲しいだなんてさ。

(なぁ、礼衣……)

真っ直ぐに伸ばされた黒髪に真っ黒な瞳。あの時、泣いていた礼衣の顔を刹那、思い出す。

そして、真っ赤な血に濡れた、礼衣の最期の姿……。

自分の無力さと虚しさを掻き集めては、絶望する。もう二度と思い出したくない、残酷な記憶の断片がほんの一瞬、自身に呼び起こされた。