「ちょ……っと」

志築の長いまつ毛と茶がかかった瞳が、私の視線とぶつかった。

少しだけ、ほんの少しだけ顔が熱くなるのが自分でもわかる。

「なー……当主命令ってことで」

志築のことは、仕事相手としてしか見たことはない。ただ志築の顔を、これ程近くで見るのは初めてだった。

(本当、顔だけは綺麗……中身はさておき)

「離……れてよ」

思わず、志築の胸元を突いた。

「……なに?冴衣、見惚れてた?」

私から視線を一切逸らすことなく、志築は、そんな言葉を平気で口にする。

口角を上げて満足そうにニヤついてるコイツを心底軽蔑しそうだ。志築の女遊びが派手なのを、分家筆頭のあの人が、頭を悩ませるのも気の毒な位わかる。

「……っ、そんな訳ないでしょ!馬鹿!」

グイッと志築の胸元をコート越しに黒のスウェット毎乱暴に掴むと、左頬に唇がつくかつかないかの距離で、私は言霊を口にする。

「…カ アン マン キリク 聖浄(せいじょう)(こと)()

吐き出された言霊は、吐息となって、志築の傷になった左頬に、吸い込まれるように消える。

私の霊力では、怪我を完全治癒することは出来ないが、ある程度の治癒を促すことはできる。
それに、今回は、負ってすぐの傷に言霊を使ったのだから、志築の綺麗な顔に傷が残ることはまずないだろう。

先程までは止まり切っていなかった血も止まり、傷も少しだけ小さくなった。