「言霊、入れてないよ」

私は、後ろを歩く志築に、したり顔で返事する。  

たまにはやり返ししなきゃね。志築には、できないことが、自分には、できる小さな優越感だ。  

「えーっ!冴衣ー……。せめてそんくらいしてくれてもいいだろ。これは恥ずかしいだろ、普通に!これ、傷目立たなくなるのに五日はかかるって!」   

志築は、くしゃくしゃと線の細い柔らかな茶髪を片手で乱雑に掻き乱しながら真夜中の冬空を仰いだ。


「あーマジか。アイツに笑われるじゃん」

「明日の会議?」

「それしかないじゃん、アイツと会うの」

明日は、御津宮三分家を筆頭とする役員連中と朝から年に一度の関東連合会議(かんとうれんごうかいぎ)が行われる日だ。

御津宮家には、関東を拠点にする分家が多い。年に数回、関東連合会議と題して、本家当主並びに御津宮三分家の当主やら分家筆頭やら、はたまた御津宮関連の神社時期跡取りやら、影狩師としての実力はさながら、財力をも兼ね備えた役員達が勢揃いする。