「え、……いらね」

やや間があって、それを見て、自らの状態に気付いた志築は、そっぽを向いた。

「あのね、子供じゃないんだから!いる要らないの問題じゃないの。貼るの!」

「いや、ちょっ……、待って」

無理やり志築の左腕をひっぱって屈ませると、手早く絆創膏を乱暴に貼り付けた。 

「痛ってぇな!」

端正な顔に似つかわない、三センチほど切れた左頬からは絆創膏を貼ってもなお血が滲み、見てわかるほど痛々しい。 

「子供じゃねぇんだからさぁー」

子供みたいに拗ねた口調で、不愉快を全面に押し出した顔で私に抗議してくる。


「あのね、子供みたいな傷作っといてそれ言える?」

志築が、珍しく押し黙った。そして、小さく呟く。

「マジで……恥だ。あの程度の影でさー」

志築は、切長の瞳を細めながら、眉を寄せている。

「冴衣ー。これってちゃんと言霊入れてくれてんだよね?貼ったら早く治る的な」

ジロリと恨めしそうに、こちらを伺う志築を他所に、私は、公園出口へと足を早める。

普段テキトーな事しか言わず、弱音も本音も見せない完璧主義者。

ーーーーだけど変なとこに拘る。

怪我しない。むしろしてはいけないと、こんな幼稚な決まりを、勝手に作って自らに課しているのだ。

志築にとっては、影狩師の絶対的な長として君臨する御津宮家当主として、そうすることによって自らを戒め、昂めているのかもしれないけれど。