御津宮本家の中庭で、俺は、煙草に火をつけた。

「俺も、大概だな」

丁寧に包帯の巻かれた左手で、煙草を挟むと久しぶりのニコチンを吸い込む。

志築が、目覚めるまで、煙草なんて吸いたいとも思わなければ、その存在すら忘れていた。点滴に繋がれて、目を閉じたまま、静かに呼吸だけを繰り返す志築の側から、ひと時も離れられなかった。

目を覚ました時、志築を一人にさせたくなくて、どうしても側に居てやりたくて。

俺に抱かれて安心しきった顔をして、再び眠ってしまった志築を俺は、暫く眺めていた。

「昔は、よく昼寝したよな……」

親に会合だなんだと、本家に連れて来られても、俺も志築も退屈で、いつの間にか離れで二人揃って寝落ちしてた。ガキだったから。

「マジで……ヤバいな……」

煙草を持つ手は、僅かにまだ震えたままだ。
それに、志築の寝顔なんて見慣れてるはずなのに、志築が目を覚ますまで、堪らなく不安だった。

俺にとって、志築の存在が、ここまで大きく膨らんでいた事を改めて思い知らされた。


(……依存しすぎも、よくねぇわな、お互いに)

本来、主従関係を軸に志築の側に居られたら、もっと割り切れるのかも知れないが、志築が、それを許さないから。

「どうしようもねぇな。俺もオマエも」

白い煙を自身の孤独と共に空に向かって大きく吐き出した。

志築の寝顔を思い出しながら。