私は、二年前から正式に御津宮当主付き封印師となった。

志築と一緒に過ごす時間が増えるにつれ、つくづくこの志築という男は、複雑で、難しい(ひと)だと思う。基本的に優しいし、飄々としながら、暢んびりした口調でよくしゃべるが、口から出るのは、殆ど適当な事ばかり。

本当に大事なコトなんて、自分で抱えこんで一つたりとも話してはくれない。元より、四歳年上の志築からしたら、私に話すような事など、ないのかもしれないけれど。

でも一度だけ、志築に聞いたことがあった。

ーーーー嫌じゃないのかって。  

少なくとも私は、姉が生きていたら、こんな窮屈を強いられる、封印師として生きることはなかっただろう。封印師になったのは、霊印家を守るため、そして、いつか《《あの人》》に姉の最期を聞きたいから。それだけだ。 

「とうの昔にそんな期待は諦めたよ。生まれは変わらない。変えられない。俺ができることをただやるだけだよ」

志築は、その時、やけに真面目な顔だった。

……自分で期待することを諦めた、か。  

こう言われた時、やっぱり志築は、私より大人なんだって、少し悔しかった。そういった鬱々としたモノを、自分の中でくしゃくしゃに丸めて、隅に追いやって、平気なフリができる。

でも、もう少し、ちゃんと、心を表に出してもいいんじゃないかと思う。そうじゃないと、いつか、その鬱々としたモノに、志築の心が蝕まれてしまいそうで。 

『志築はちゃんと笑うのが下手なの』

そう、礼衣が、笑って話してたことを、前をいく志築の後ろ姿を見ながら、ふと思い出した。

礼衣は、本当に志築が、好きだったから。