「冴……衣、俺は!」

俺は、こんなことして欲しくて側に置いたんじゃない。

「違う……俺が側に置いたのは、冴衣に……」


ーーーーただ冴衣に笑って欲しかったから。


「志築……ちゃんと、笑ってね」

「ふざけん、な、……そんなの……ダメだ!」

倒れ込んだ、冴衣を俺は、抱きしめた。こんなに誰かを強く抱きしめたのは、いつぶりだろう。

ーーーー礼衣……。
 
「やめろ……頼むから……俺から奪うな……」


俺は、もう誰も失いたくないんだ。

誰かを失うくらいなら、俺が、お前の所に行くって決めてたから。


「志築様!」

融か……?早く治癒術を……。

何故だか、融の声が遠く、くぐもって聞こえる。頭もうまく回らない。身体に入る力も僅かだ。

ーーーーしっかりしろ。何がなんでも守ってやるって決めただろ。

冴衣は渡さない。真遥には絶対に。真遥にだけは、もう譲らない!

冴衣の心臓に触れる。

俺が冴衣にしてやれること。

俺自身が救われる為に。

もう誰も失わないように。 


ーーーーもう冴衣が泣いたりしないように。  


俺は、その言葉をゆっくりと口にした。