私は、ドアノブに手を掛けゆっくりと開く。

扉の中は、れんげ草が咲き乱れ、中央に木製の花台がおかれ、空間浄化の為の水晶の石が置かれていた。 


ーーーーどこからか、私の足元に擦る寄る黒い影。

視線を合わせるように私はしゃがみ込んだ。影は、ふわりと黒猫へと姿を変えた。

「あなたが融さんの式神ね」


『冴衣様、伝言を式神に預けます』 

ーーーー黒猫から、融の声が紡がれる。

『此度は、僕の身勝手な行動で冴衣様を危険に晒してしまい、誠に申し訳ございません。

全ては志築様の為とはいえ、僕は冴衣様に、お命に関わる選択を委ねたこと、重ねてお詫び申し上げます。今宵が前御津宮当主、御津宮 真遥の最弱の状態は間違いございません。『封印』または『融合』が可能なのも今宵だけでございます。

志築様の心の闇を、僕はお救いしたい。どうか、冴衣様、志築様のために最善の選択をお願い申し上げます』

ーーーー成程……、初めから、私と真遥を会わせるつもりだったのか。志築が私を外すことも想定した上で、陰で三鈴封水と何らかの取引が行われたのだろう。恐らく幸太に指示を出していたのも融さんだ。


「融さんに。伝言をお願いできる?」


黒猫は、小さく頷き、ニャーと泣いた。