「……幸太」
ぐいと顎を上げて顔を向けさせる。顔は、腫れあがり、口元から血が垂れ流れている。思わず胸元に手を当てた。
僅かに上下する鼓動、幸太が生きて呼吸していることを確認して、心から安堵する自分がいた。僕はやっぱり、誰かを犠牲にできるほど、強くもなければ、器用でもないのかもしれない。
「幸太、起きるんだ!」
手足の拘束を解くと、右腕がダランと不自然に垂れ下がった。右腕は封水氏に折られたのだろう。再度、幸太の胸元に手を当てる。
霊力で治癒を促す。治癒術は、高い霊力と血筋が必要で、僕は、あまり得意でない。それでも、ほんの少し、幸太の呼吸が落ち着いた。
しかし重症には変わりない、出来るだけ、早く病院に連れて行った方が良いだろう。
「幸太、幸太!わかるか?僕だ」
腫れあがった顔を少しだけ上げ、幸太が、うっすらと目を開けた。
「……融……さん。おれ……」
「よく頑張ったね。予定通りだよ」
「冴衣は……?」
「真遥様の元だよ」
「式神は?」
僕の指示で、幸太は、冴衣を御津宮の調布の別荘に連れて行き、三鈴封水に受け渡しをすることになっていた。
幸太には、冴衣様の護衛を依頼していたが、おそらく、結界を張る暇も与えられず、完全に封水にしてやられたのだろう。
「あいつ、……めちゃくちゃ強くて……状況を何も知らない……冴衣……式神を預けるつもりだった……けど間に合わ……なかった」