「お前ら兄弟はホント、ガキみてぇな大人とばかり縁があったんだな。苦労していたのがよく分かる。とくに坊主の兄ちゃんは大人に対して反抗心が強い。いつもお前らみてぇな大人には頼らねえって怖い目をしやがる」


 反抗心……。

 それは兄さまの心の傷がそうしている。
 大人に助けを求めたけれど、助けてもらえなかった、過去の傷が。

「大人に甘えることを知らないからこそ、手前が大人になって坊主を過度なまでに大切にするんだろうが……背伸びしすぎなんだよ。おいちゃんから見たら、兄ちゃんも坊主もハナタレだ。ハナタレ」

 前触れもなしにぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。
 そんなことをされたのは兄さま以外、初めてだったものだから、おれは頭を押さえて見事に固まってしまった。益田警部とおれは他人なのに、どうして? どうして撫でてくれるの? どうして兄さまのようなことをしてくれるの? 優しくしてくれるの? どうして?

 目を白黒させるおれを余所に「坊主はどこまでも素直だな」と警部さんは肩を竦めて、その素直さを兄ちゃんに教えてやれ、と言ってスツールから腰を上げた。

「もうすぐ午前様だ。夜更かしは体に障る」

 起きたばかりのおれに、益田警部はもうひと眠りするよう言った。

「坊主らの病室前にそれぞれ部下をつけた。今度は簡単に不審者が飛び込むこともねえから安心して寝ろよ。俺もそろそろ署に戻らねえと……なんで俺が病室にいるか不思議そうな顔をしてんな? ま、坊主の様子を見に来たってところだ。成人している兄ちゃんはともかく、お前さんは未成年。大人の誰かが看てないとな」

 筆談もしていないのに、益田警部は俺の心を見通したように返事してくれた。
 その際、大好きな兄を想うのなら今晩はゆっくり休むよう、しっかりとおれに釘を刺してくる。決して無理をしてはいけない。無理をしたところで痛い目を見るのは自分だ、と口酸っぱく言ってくる益田警部をじっと見つめた。

 視線の意味を察したようで、警部さんはひらひらと手を振る。

「今日の事情聴取は終わりだ。あんなことが遭って疲れているだろうし、兄ちゃんがいねえ時はしないってのが約束だからな。まあ、世間話も条件には入っていたが……こればっかりは仕方ねえよな」

 まだまだ聴きたいことはあるが、それは後日だと警部さん。
 おれはスケッチブックのページをめくって、お父さんのその後について尋ねた。これだけは聞いておきたかった。おれ達に殺意を持って病室を襲撃してきたお父さんはあの後どうなったんだろう?

 すると益田警部は苦い顔をして「あれは現行犯逮捕して署に連行した」

「取り調べに同席したが、ガキみてぇに喚いて訳の分からないことばっか言っていたよ。あれが坊主らの父親なんて思えねぇな。まだお前さん達の方がしっかりしているぜ」

 ああ、そうだ。

「坊主。もう二度と殺意のある人間の前に飛び出すなんて、危険なことはするんじゃねえぞ。あんな無茶な真似、自殺も同じだぜ? ……いいか、おいちゃんと約束してくれ。何も知らない若いモンがあんな無茶をするもんじゃねえ」